あの日を思い出して怖い夢をみる少年の話 第1話
『ごめんねぇ、おしっこしたかったんだねぇ』
僕の足に垂れたおしっこを舐められる。逃げないと、そう思うのに、体が動かない。
『きっとおちんちんもびしゃびしゃでしょ?おじさんがキレイキレイしてあげるねぇ、』
足にかかる、生ぬるい息。
『やだっ、やだっ、』
降ろされかけるズボンを必死にたくし上げるけど、あっけなくパンツまでも脱がされる。
『ひっ、やだ、やめて、』
おじさんの口が、僕のおちんちんに近づいていって…
「っはっ、ぁ」
ガバッと体を起こすと、見なれた天井。
(ゆめ…)
汗が背中をつぅっと流れる。運動してたみたいに心臓がバクバクいって、喉はカラカラ。あの嫌なことがあってから2週間経つのに、まだその夢を見てしまう。あの後警察にお話をたくさんした時には見つからなかったものの、同じことを別の人にしていたからか、すぐに逮捕された。だからもう心配することなんてないのに。
ムズッ…
(おしっこ…)
この夢を見た時には必ずと言っていいほどおトイレに行きたくなる。行けばいい、そうなんだけど、あの夢を見た後は、一人で行けない。
(おばけ怖いってこんな気持ちなのかな…)
施設にいた頃は、よく同室の子に起こされて一緒にトイレに行った。でも、僕はそれを信じないから、その子の怖い気持ちがあまりわからなかった。でも、あの日から、夜夢を見ると、トイレにおじさんが現れるんじゃないか、ってあるはずもないのに考えてしまう。
「…おにいちゃん…」
寝ているお兄ちゃんの肩を二、三度叩くと、少しもぞもぞした後、ぼんやりと目が開く。
「ゆーた?どうした?」
「トイレ、ついてきて、ほしい…」
じゃあああああああ…
便器の水が流れる音。その大きい音も怖くて、慌ててドアの外に出る。
「おわった?」
「うん…」
「俺もしてこよっと」
じょぼぼぼぼ…
ドアの外で一人になった瞬間、さっきの夢を思い出してしまう。
どく、どく、どく…
(なんか、日に日に怖くなってる…)
初めて見たのは1週間前。その時は、目覚めた時は怖かったし、1人でトイレにも行けなかったけど、こんなにドキドキしなかった。3日前は、もう一回寝るのに少し時間がかかった。
今日は、もう一回寝るのが怖い。
「おまたせ~…どうした?」
トイレから出てきたお兄ちゃん。トイレの電気が消えて、真っ暗になる。それが、とてもとても胸が落ち着かなくて。
「おにいちゃんの布団で寝てもいい?」
「いーぞ、怖い夢でも見たのか?」
「…おばけの…」
「そっかそっか。じゃあ、戻る時も手繋いで帰るか。おばけがこっち来ないように」
「…うん…」
握られた手はあったかくて、自然とほぉっとため息が漏れる。と同時にすごく眠くなって。お兄ちゃんの布団の中に入った瞬間、眠ってしまった。嫌な夢は見なかった。
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