不審者が怖くて失禁しちゃった少年の話 第2話

ガチャ…

突然鳴ったドアの音。また心臓がうるさくなって、息が苦しい。

(はやく、はやく隠れないと…)

擦りむいて足が痛い。おしっこ、したい。怖い。

 動いて欲しいのに、まるで金縛りにあったように、体が動かない。

「っはぁ、っひぅ、っひぅ、」

苦しい。頭がぐらぐらする。

「ただいまー」

怖い、怖い、怖い。触られたところ、舐められたところがゾワゾワする。

「どうしたんだそんなところで。電話も出ないし…あ、受話器降りてないじゃん」

「っひゅ、っひ、ぎ、」

すぐ近くまで、来てる。早く、早く逃げないと。

「ゆうた!?どうした、しんどいのか!?」

強く掴まれた腕。やだ、捕まる。

バシィっ、

「っひ、ゃだ、こないで、こないでっ、」

「え、おい、」

「やだっ、ごめんなさ、蹴ってごめんなさ、っひぃ、やだっ、やだあああ、」

出ない声を絞り出して、動かない体を必死に動かして、その手から逃げようとする。のに、一向に振り解けない。

「やだ、っひ、ゲホっ、っは、っは、」

「ゆうた!!しっかりしろ!!お兄ちゃんだ!!」

突然ギュッと体を抱きしめられる。

「っひゅ、お、に、ちゃん?っひ、」

「そーそー、くるしーな。ゆーっくり息してみようか」

「む、り、」

「だいじょうぶだいじょうぶ、あれ、」

お兄ちゃんの膝に乗せられて思い出す、ズボンの湿り。

「ごめ、なさ、おし、こ、」

「間に合わなかった?」

声を出すのが辛くて、頭を振る。

「そっかそっか。だいじょうぶだからな、吸ってー、吐いてー」

心臓の音と、背中の振動。温かいお兄ちゃん。いつもの、安心感。

「っげほっ、っは、っは、」

「じょうずじょうず」

「っはぁ、っはぁー…はー…はー…」

息が一気に楽になって、体の力が抜ける。頭がぼんやりして、気持ちが緩んで。

「おに、ちゃん、」

目にみるみる涙が溜まっていく。

「んー?もーしんどくないか?」

「うん、ぁ…」

しょおおお…

お尻が一気にあったかい。

「あ、あ…ッヒグ、」

慌てて止めようとするのに、体が痺れて力が入らない。お兄ちゃんのスーツもびちゃびちゃになっちゃう。

「ごめ、なさっ、」

「いいよいいよ。我慢してたのか?」

「してなっ、こわくてっ、」

「怖い話聞いたの?」

「ちが、おじさんに、おちんち、さわられて、」

「…え?そのおじさんは知ってる人?」

「しらないっ、かえりみち、」

「触られたって…どんな風に?」

急に声が低くなるお兄ちゃん。

「あし、とか、さわさわって、で、おしっこでちゃって、でも、がまん、とか、してなくて、」

「怖くてびっくりしちゃったんだな。で、それ以外に何かされた?」

「おしっこ、あしの、おしっこ、れろってされたっ、」

「舐められたってこと?」

「うん…」

「そ、か…」

「それで、かお、けって、にげちゃった、」

「それでいいんだよ。足、怪我してる」

「こけちゃ、た…」

「後で消毒するか。あとは?他に怪我してない?」

「してないっ、わ、」

突然強く抱きしめられる。

「っはぁ…よかった…」

はぁぁぁ…大きなため息を吐くお兄ちゃん。心臓がさっきよりも早い。

「おにいちゃん?」

「あーよかったぁ…帰ってきて…」

「ぐるじい…」

「ああごめんごめん。膝手当てしてお風呂入るか。あとは警察にお話するけどいいか?」

「うん…」

「じゃあ早く綺麗にしてご飯にしよう。今日はハンバーグだぞ」

「やった!あ、そうだ、今日ね、算数のテスト…」

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