わざとおねしょする少年の話

こじらせた処女/ハヅ

第1話

「今日もおしっこ出ちゃった?」

「…ごめんなさい…」

「大丈夫だよ。じゃあシャワー浴びに行こうね」

ある日の朝、ユウタの布団には珍しくもない世界地図。小学2年生の体には珍しいことなのだろうけど、彼にとっては日常茶飯事だった。兄であるコウに温かいシャワーできれいに洗い流し、服まで着せてもらう。ホカホカにぬくくなった体でリビングに連れて行かれ、兄の膝の上で甘いココアを飲む。いつもより優しい兄。ユウタはいつしかその恥ずかしいことを意図的に行うようになったのだ。


 彼らは普通の兄弟ではない。腹違いの、そして一緒に暮らし始めて二ヶ月という新米兄弟なのである。

 ユウタは物心がついたときから養護施設にいた。親はもちろん、兄がいるだなんて考えもしないわけで。いきなり兄と名乗る人が現れて、養護施設より広くて綺麗な子供部屋を与えられたところで、彼の頭は混乱するばかりだった。ご飯は美味しくて、話を丁寧に聞いてくれる人が居て、何不自由ない生活で幸せであるはずなのに、未だ彼の心は張り詰めたまま解けることはない。


 そんな時、彼は寝小便をした。その時に与えられた優しさが心地よく、学校のない休日のどちらかの日に失敗することが、彼の日課になったのだ。これは甘え方を知らない少年が、愛の求め方を不器用に知っていく、そんな物語である。

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