第11話

 若い男はあっけなく果てた。

 あまり経験がないのだろう。


 しかし、この子はこれから女を悦ばせる男になるだろうと民子は思った。

 こういうことは経験ではない。


 素質や生まれもっての体の問題のほうが大きいことを民子は知っていた。


「おばさん、好きな人とかいないの?」

 男の口調は固かったが、幾分かの親しみが含まれていた。


 体を重ねることと心を重ねることは全くの別物だ。

 しかし、やはりわずかな連帯感がそこには生じるのだった。


「え?」


 男はきょとんとした目でこっちを見ていた。

 男は精を出し切ると憑き物が落ちたようにすっきりとした顔になる。それまでは挑むような目をしていた男も。


 こんなふうに精を絞ると魂まで抜けてしまうように、どこか無垢になるのが普通の男だった。


 対して、女は男に内側に精を放たれると、どこか狡猾な目つきになる。


 その瞬間、どんなに我を失い、快楽に溺れたとしても、意識が冴えればその男との先のことを計算しはじめるからだった。


「どうして?」

「いや、なんとなく」


 この若い男には好きな女が居るのだろうか。

 それを口にしてみる。


「別に」

 男は皮肉な笑みを浮かべた。


 そうするとやけに大人びた顔つきになった。

 男の言ったことが、嘘なのか、本当なのか、わからなかった。


 幼くても、もう男なんだと民子は思った。

 民子は考える。


 自分に心底愛した男が居たのか、居なかったのか。

 夫だった和男がそうだったのか。


 客として出会い、長く情を通じた康がそうだったのか。

 男たちの気持ちに自信が持てなかったように、民子は自分の気持ちにもいまいち自信が持てない。


 ただ一つ、民子がしっかりと言えることは、自分の胸に深く残っている男は和男と康だけだということだった。

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