香水女

梅春

第1話

 午後四時、母がそうしていたのと同じ時間に、飯塚民子は鏡台の前に座り、化粧をはじめる。


 夕方の弱い光の中、母が眉をひき、紅をひくのを幼い民子はうっとりと見上げていた。

 民子の母はもとから美しかった。


 その母が輪郭をごまかすように粉をはたくと、更に美しくなる。

 しかし、そこには生気がなかった。


 母が消えていくように感じた。

 当時の民子は「はかない」という言葉を知らなかったが、その様子はこのうえもなくはかなかった。


 なぜ母がそのような様子だったのか、その理由を知ったのは、母が死んだ後だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る