作家はなぜ創作論を語りたがるか
ここ一、二週間、ライトノベル界隈でまたぞろ創作論についてたくさん燃えていたようだ。同じ話題が何回目だよ? と言いたくなるくらい、作家は創作論を語るのが大好きな生き物である。そんなに主語を大きくして大丈夫か、という心配はご無用。創作論を語らない真人間の作家はこんなカクヨムのエッセイなんて読まないからね。
なぜ作家は創作論を語りたがるのか?
結論から先に言うと、100%承認欲求のためだ。
こちらは100%と断言してもまったく問題なし。だれも反論し得ないぴかぴかの真実だ。そしてまた興味深いことに、創作論を語るのが100%承認欲求のためだ、という事実が「小説の創作論」の特異性を見事に炙り出してもいるのだ。
* * *
そもそも小説の創作論ってなんなのか、というと、これは
「面白い小説を書くための技術のうち、言語化できているもの」
ですね。
言語化できてなきゃ「論」ではないし、面白さにつながらないなら、まあ、語るのは勝手だがだれも相手をしないので「論」にはならない。
では、その中身はなんだろう。
小説の面白さは以下の式で決まる。
A:[作者の頭の中にある面白さ] × B:[それを読者に余さず伝える技術]
掛け算なのがポイントで(前にも同じことを書きましたね?)、Aの数値がどれくらいデカかろうがBが0.1なら十分の一に萎むしBがゼロなら無に帰す。だからどちらが重要ということもなく、どちらも重要。ただし、Bはあくまでも「余さず伝える技術」なので、値が0(全然伝わらない)~1(全部伝わる)の間に収まる。対して、Aは上限値がない。
さて、創作論というのはどれのことかというとBなんですね。言語化できるから。Aはまるで言語化できていない。これまた前にも同じことを書いたが、面白いことを思いつく技術を言語化できた作家は歴史上ただの一人もいない。いるなら出てこい。そして教えてください。ほんとにお願いします。
より正確に言うなら、Aの中のごくごく一部は言語化に成功していると言えなくもない。それは「面白いと思った既存作品の面白いところを真似る」だ。これもやはり厳しい上限値が存在することがおわかりだろう。上限を設けずにこれを追求すると完全な剽窃になってしまう。
ということで、世にある小説の創作論のすべては、「思いついた面白さを読者に余さず伝える技術」+「既存作品のここが面白いよねっていう実例提示」。ほんとうにひとつの例外もなくこの範疇に該当するので、嘘だと思ったら実例をいくつか拾い上げて検証してみることをおすすめする。
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そして小説の創作論の特異なところは、「簡単に身につく」という点だ。
他の芸事、たとえば絵、漫画、音楽、踊り、演技、などにももちろん創作論はあるけれど、どのジャンルでも論だけでは不十分で、実践できるようになるためには地道な反復練習が必要だ。ところが小説は、フィジカルな要素が一切ないので、ほんとうに簡単に身につく。練習がまったく無意味、とまでは言わないけれど(ある程度書いてみないと身につかない要素はあるでしょう、それはもちろん)、「反復」は不必要だし、他の芸事に比べて「量」もまったくものを言わない。
したがって、この技術を身につけているだけの人間の価値が著しく低い。
今回の騒動がいつもより少し多めに燃え上がったのは新人賞の選考に言及されたからだろう。曰く、創作論に頼って書かれたような作品は選考で不利、ということで、これは今回の騒動に限った話ではなくありとあらゆる新人賞の選評で様々な作家が異口同音に言っていることだ。小手先の技術で書いたようなものは要らない、とか、個性が大事、とか、目新しさがないと、とか、技術は後から身につくから突出したものがほしい、とか、表現はちがえど全部同じことを言っている。
前述の式をもう一度書こう。
A:[作者の頭の中にある面白さ] × B:[それを読者に余さず伝える技術]
Bは最低でも0.4くらいあればAがどれくらいでかいのか判定できるし、後からBを1.0に近づけるなんて簡単にできるから、とにかくでかいAを見せてくれ、とみんな繰り返し言っているのだ。
Bの重要性が低いのではない。技術が言語化できていて簡単に1.0にできるし、プロはだいたいみんな1.0近くになっているので、わざわざコストをかけて新人賞を開催してB値が高いだけの人間を登用しても出版社にはなんの利益もないのだ。
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さて、今回の記事の本題はこんな当たり前の話ではない。
冒頭にも書いた通り、なぜ作家は創作論を語りたがるのか、だ。
作家は承認欲求の塊なので(これは0の次の整数が1であることよりもはるかに自明の事実なので詳しく説明しないが)四六時中承認されたがっている。作家の承認欲求を満たす最適な方法は言うまでもなく面白い小説を書いて出版することだ。しかしこれはとても苦しい。時間もかかる。真夜中にふと承認欲求の膨張に襲われたときにすぐさま満たしたい! イラストレーターならさらっと可愛い落書きをSNSにあげるだろう。DTMerなら面白音源を、ダンサーなら短いダンス動画を……しかし小説家は! できない! 小説の面白さの大部分はA:[作者の頭の中にある面白さ]であり生み出すための手法が言語化されておらずさらっと披露なんてできない! でも作家ぶって承認されたい!!!!
そんなときどうする?
そう、B:[それを読者に余さず伝える技術]つまり創作論をSNSに書き連ねるわけです。Aのために頭を絞らなくていいので圧倒的に楽。ほんとに楽して承認ポイントを稼げる。もっと重症なやつだとカクヨムに書くわけです。その実例が今あなたの目の前にいますね。
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これを書いた後、ちゃんと原稿に戻ったことをここに記しておく。関係各位、ご安心ください。
小説家ほど気楽に稼げて楽しい商売はない @hikarus225
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