第47話
ガタガタと不審な音を立て、マフラーからは咽てしまうほどの白煙を出すバンの荷台に姉御は荷物を詰め込んでいる。
「早くしろよ。間に合わなくなっちまうよ!!」
池上は運転席から顔だけだし怒号を上げる。
「どうして今から出て間に合わないなんて計算が出来るの!?」
姉御は運転席の池上を見て怒鳴る。
「そんなのこの車に聞いてくれ!」
「どうしてこんなボロいの買ったの?今時、探すほうが大変でしょ?」
助手席に座る僕は、溜息混じりに池上に言う。
「仕方ねぇだろ?知り合いから凄く安く譲って貰えたんだし……」
「終わったよ」と、言って姉御は荷台のドアを荒く乱暴に閉める。
「本当に大丈夫なんですかぁ~?」
後部座席から不安そうに僕と池上を覗き込む女子は、
姉御の学校の同級生で、今は僕等のバンドのヴォーカルをやっている。
元々、他のバンドのヴォーカルをしていたのだが、彼女のバンドが解散する事を聞き、半ば強引に引っ張ってきた。
かなりアクの強い歌声とキャラクター。
そして確かな歌唱力。
普段は大人しくて普通、というかむしろ、陰キャっぽい女子なのだが、ステージ上ではメンバーが引くくらいに豹変する。
実際に見る前は、女性ヴォーカルを嫌がった池上だったが、本性を知り、今ではそれなりに認めている様子だ。
それ程までに強い個性の持ち主。
コムの解散からは二年の月日が経った
僕は地元の三流大学に合格。
東京にでも行くかと思われた池上も、僕とバンドを組むと言ってしまったが為に、何故か同じ大学に通っている。
とはいえ、お互い実家に戻り同居している訳ではない。
今更、話す事でもないのだが、高校時代は彼も僕と同じく、実家を出てみたかっただけなのだ。
”その方がロック”という、酷くつまらない理由でだ……人のことは言えないけど。
姉御は、美容師専門学校に通っている。
とおちゃんはその学友だ。
宮田と木田は、別々の大学ではあるが、お互い志望校に合格し京都で生活している。
そして気になる僕等のバンド活動は…………すこぶる順調。
つい先日、インディーズという市場ながらも初の単独のCDを発売した。
コム時代のツテやコネもうまく利用し、どうにかこうにかここまで来た。
個人的に連絡を取れるようになった三谷さんには「まだまだ」と、言われてしまっているが……。
そして今日が、レコ発(レコード発売)ツアーの出発日。
スタートは京都にしてみた。
「じゃあ、行こう」
姉御が後部座席に乗り込む。
「おお、行くかぁ!!」
池上の目が血走っている。
その様子に不安を感じたのか、姉御は恐々と尋ねた。
「あれ?ちょっと待って池上。あんた、この間まで免許持ってたっけ?」
「この間取った。で、車買いました!」
らしくない程に池上は緊張して、おかしな口調になっている。
「待って待って、怖いよ池上!守、運転代われば?」
姉御は僕を見て言う。
「いや、それは……。僕もマニュアル車とか運転出来ないし……」
「何それ?……はぁ、じゃぁいいよ。無理しないで、あたしが運転するから」
呆れた様子の姉御が池上を止めようとするが――
「うるせぇ!!任せろ。出発だ。行くぞ京都!!」
池上は投げやりになって車を発進させる。
が――。
エンストする。
僕と姉御は冷ややかな目で池上を見る。
焦っている池上を見て――
「……怖いです」
とおちゃんは小さな体をより小さくし、震えながら言った。
完
アドバンッ!! 麻田 雄 @mada000
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます