終章1・正体……


 あれから、氷室で倒れていたわたしは、病室へと連れ戻されていた。


 昨日、資料がおちてきて、大変な目にあったというが彼はピンピンとしていた。

 

 わたしは大変だったというのに何をやっていたのか。


「あの骨の正体がわかった……聞きたいか?」


 なんとなく、察しはついているが、わたしは頷いていた。


「うん」


 たぶん、破落戸の武士に無惨に殺されたご先祖様だ。それは満天という少女を残して皆殺しにされたそれが49人の人々。


 わたしはそう考えていた。


「あの骨は本当の三条家の人達と家臣達だ」


 やっぱり……


「えっ? 本当の?」


「俺達は偽物の三条家だったんだ」


 驚きの正体を口にした。

 偽物って何、わたしたちは三条じゃない……じゃあ、わたしたちは何?


「出土した骨と、俺達のDNA鑑定を頼んだ。結果は俺とY染色体と繋がらなかった」


 Y染色体とは父から息子に受け継がれ遺伝子の事で、男系の一族に受け継がれため一族分布を研究するのに適したDNAとなる。


 たとえば、天皇家はこのY染色体が古代から変わらず受け継がれており、その事から男系の先祖をたどるにはうってつけの材料となる。


 それが兄の説明だ。


「彼らは俺達と男性のつながりはなかった。

 系図で男系でつながっているのに断絶して、すり替わっているんだ」


 すり替わっている……

 つまり、三条ではない誰かが、真実の三条家を皆殺しにしてすり替えられたということ……


「末代まで、呪ってやる」


 ポツリと口からもれている。

 瞬間、ゾッとした。


 血で血を洗い、名家の名だけ奪った恐ろしい存在が今の三条家なのだ。


 その言葉が深くしみ込んでいく。


「だから、俺達の先祖はあの塚と伝説を作った」


 あぁ、元の三条家を化け物にしたて、それを退治した三条高正、家を奪い盗った人。


 その人は誰?


「祀られていた荼枳尼天、漆塗りの骸骨、これだけで三条高正の正体は見えてくる」


 わたしは息を呑む、すべての張本人の正体。


「南朝の関係者で、もと僧侶なのだろう」

 

 南朝って何?

 不可思議そうなわたしに宗美兄さんは笑う。

 

「歴史の授業で習うだろ、南北朝時代の片割れ、後醍醐天皇が開いた王朝のこと」


 いきなり、大きな歴史の流れが現れた。

 テスト範囲としか聞き流していない歴史の話。


「南北朝って、足利とか、楠木とかの?」


 ベッドで横になったわたしはたずねた。

  

「そうだ、表は武士の足利尊氏や楠木正成などの人物にスポットが当たるが、裏のオドオドしさは根が深い。

 荼枳尼天の力をかりたのが後醍醐天皇だった」

 

 かつて、荼枳尼天を祀り時代に逆らった集団がいた、汚名と真実をまとわりついた文観という僧侶を隠れ蓑にした者たち。


 そんな彼らの力は後醍醐天皇を魅力し、権力を求め続けた。


 塚に収められていた荼枳尼天の石像が証拠。


 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る