第6話 地獄に落ちて……あふれる物

 寝られない。夜になった。

 病室で毛布をかぶり、震えをおさえようとする。


 ぜんぜんおさまらない。

 ずっと、続いている。


 みられている気がする……


 黒く艶めく髑髏から、見下されている虚ろな眼窩、あれが近づいてくる。


 ビクッ


 思わずベッドの、中で肩をだく。

 なんて、恐ろしい。

 何もなかったなんて、いえない。


 兄も塚の推測は口にしたが、私が骸骨に襲われたなんて口にしていない。

 信じてくれないだろうし……

 けど、私は見たし触れた。


 怖いなんて………


 ガシャ……ガシャ…ガシャ


 そこにおかしな音が聞こえた。

 無貨物的な音だ。

 リノリウムの床に音が響く。


「なに?」


 ベッドから顔を出すことはできない。

 違う。動けない……体が、動けない!!

 遠かった音が近づいてくる。

 少しづつ、ゆっくりと……


 ガシャ……ガシャ……ガシャ……ガシャ……ガシャ…ガシャ…ガシャ


 キィーーー


 今のは扉が開く音。

 ベッドから動けない私には聞こえる音が全てだ……わからない、この音は何?


 ガシャ……ガシャ…ガシャ。

 

 眼の前で音が止まった。

 静寂がつづく………


 そして、なにも起きなかった……?


「ほっ〜」


 瞬間、毛布がはぎとられ、首をつかまれた!


 「ーーーーーーーーーーー!!!!」



 わたしの首をつかむ、か細い角張った灰の指は、まさに骨だ。


 そして、眼の前には漆塗りの頭蓋骨がいた。

 錆びた棒を振り上げて、私を見下ろしす。


 声にならない、悲鳴すら出ない、ふるえて、怯えて、苦しくて、たえられない………


 少しでも、逃れようとあがき、


「ーーー!」


 助けを求めて気付いた、ここは病室ですらない。

 ベッドで寝ていたはずなのに、板の間に寝ていた。


 そして、赤々と燃える屋敷。

 骨の群れが刃をふり人を殺していた。

 逃げる、私達の家族に知り合いが骨の群れに、殺害されていく。


 今、首が落ちる……その首は宗美……兄さん!


 「ーーー!!」


 血と赤に景色が塗りかえられる……

 まさに地獄……どえして、わたしはこんな目にあうの。

 

 子供がこの光景を見ている、あの子達も、この地獄に落ちる、早く、早く、逃げて!


 怖くて苦しくて、かなしくて、涙がこぼれる。

 そして、恨めしい…胸の内からずっとあふれる恨みくるしみ。


 溢れそうなのになにも……


 どうして、声が出ないの!

 なにかに手をのばしあがく、終わりが近づいた。

 のどの奥から私の物ではない声が溢れていた。


 ー末代まで呪ってやるー


 瞬間、骸骨が笑む。


 ーそれはわしの言葉だー


 鉄の棒が振り下ろされる。

 わたしは目をとじた。


 狐の鳴き声が夜明けに響くーー………


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