第5話 荼枳尼天
「めでたし、めでたし」
宗美兄さんが手を叩く。
なんだ、平安の遠い昔の出来事じゃないの。
そう、狐はわたしのご先祖さまと闘った。じゃあ、あの狐は……
その狐はポリポリと耳をかく、こう見るととても可愛らしい。怖がっていたのがバカらしく感じるほどに。
「でも、昔話でしょ?」
わたしが信じてないとアピールする。
宗美兄さんは指をふる、今の現状がとても、楽しそうだ。
ムッとする。
「だってさ、あの塚に49人分の骨がでたんだぜ」
瞬間、わたしはあの恐ろしい骸骨を思い出した。
黒い頭蓋骨、薄汚れた骨、肋に突き刺さった金属……こ、怖い、だって、あれ、動いて……
「48人の仲間、人間の骨……そう化物の正体は人間。つまり、あの開祖譚は真実で、そして、裏がある……」
「どういう事……?」
恐る恐るたずねる。
「気になる点があるんだ。人間の骨というのはいいんだが、仲間の骨のいくつは子供の骨。
さすがに、化け物が人間の子供とか考えられないだろ」
子どもの骨? つまり、
「さらに、1人だけ、頭蓋骨が漆でぬり固められていた」
艶光る頭蓋骨、あの黒いのは漆……そこまでする者って、なに……
そこまでするなにか、しかも塚に固定するように貫かれた鉄の棒……
ここまで、される人って誰?
これはなんなの?
「あれは、荼枳尼天なのかもな」
宗美兄さんがポツリとつぶやいた。
ーーーーー
「ダキニテン?」
理由のわからない言葉だ。
聞いたことがない………
「あの稲荷は、元は稲荷としてじゃなく荼枳尼天として祀られていたのかもな」
普通に狐が祀られたり稲荷って書いていたのに。
「お稲荷さんじゃなくてダキニテン?」
私は首をひねり、宗美兄さんにたずねていた。
「ああ、簡単に言うと、昔の日本で稲荷と同じ扱いをされていた仏様。元はインドの女夜叉 ダーキニー 人の死肉を食らう女鬼だった」
人の死肉……あの骸骨を思い浮かぶ、つまり死体を食べさ……せられていた事。
「じゃあ、あの骨はそのダキニに食べさせたの?」
思わずふるえてしまう。
寒気がする。
そこにいる狐は私を食べるつもりなのかもしれない………怖い。
「あれは神様だ。実際に食べるわけない、狐も人の肉は食べないぜ。ははは、怖がりだな。みのりは」
宗美兄さんは快活に笑っていた。
怖がっている姿がおもしろかったのか、腹を抱えて笑っている。
「じ、じゃ、あの塚はなんなのよーー!」
私は机を思いっきり叩く。
やがて笑うのをやめ、宗美兄さんは答えた。
「神を祀るのは人だ。なにか理由がある」
理由って……なによ?
「荼枳尼天を呪術に人の肝、心臓を捧げ物事を操る力がある」
宗美兄さんの顔が青くくもりつぶやいた。
私が聞いているのに、兄はエグいことまで話している。
これはスイッチが入ったんだ。
「もしかして、それかもしれない………平安の公家と言っていたが塚の伝来と時期が合わない……どういうことだ」
前半の部肝と心臓を捧げる……その一文が怖い。
狐の化け物よりも、その人間の恐ろしさにふるえてしまう。
だって、あの塚の話は開祖譚。
それを行っていたのは私達のご先祖様……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます