第2話 三辻の塚から


 いつまでも、はなれない気配。

 もうすぐ、メイと別れる三辻が近づく……

 

「そうそう。最近……宿題おおすぎ」

「……そうだね」

「数学だけ。終わらないって」

「……うん」

「ねぇ、きいた。数学の佐藤」


 わたしは饒舌に会話をつづける。

 いつもわたしは、こんなにしゃべらない。

 

 メイは戸惑っている。

 後ろの気配にじゃない。

 不審におもっているのはわたしのこと。

 本当に気づいていない。


 どこまでも、ついてくる知らない気配。

 目の端に移る少女。

 しっかりと振り向くと……誰もいない。

 中途半端な一瞬だけ、そこにいる。

 

 誰なの?


 途切れる会話がこわい。

 その気配に意識がむいてしまう。


 そして、三辻にさしかかる。

 あぁ、ここでメイと別れる三叉路。


 「うん。それじゃあ、またね」


 メイは手をふる。

 わたしは恐怖をおしとどめて手をふった。

 だって、そんなことをいえない。


 一緒にいてなんて。


    4 


 メイと別れ心細くなる。

 早く、家に帰らないと、一歩ふみだす。


 タッ


 とたんに足音がひびく。

 今まで気にしなくてもよかった気配が濃くなる。

 足が止まった。

 

 夢で見た小さな祠。

 よごれた陶器の狐が二匹、昔は赤かった小さな鳥居。

 ちいさな塚の上にある祠。

 気味が悪い。


「早く帰ろう」


 わたしが誰に聞かせるわけもなくつぶやく。

 自分の家の道へと体をむけた。

 早く帰らないと。

 一人になったら……

 どうなるの。

 

「えっ」


 突然のまぶしい光がわたしを照らす。

 いや、射抜くといってもいい強烈な光。

 しかも、それが猛スピードで近づいてくる。

 

 車だ。田舎でよく使われていワゴン車!

 足が動かない。

 まるでかなしばりのように……


 死ぬ。


「きゃあっ!」


 瞬間、わたしは強い衝撃に突き飛ばされた。


 轟音があたりに響く。

 わたしは、……ひかれて……


 ち、ちがう!

 

 そう、車はわたしの後ろをすごい勢いで通り過ぎ、塚をえぐり制止した。

 わたしを尻もちをついている。

 衝撃は別のなにか!

 

「だれ?」


 辺りを見回しても誰もいない。

 そうだ、車だ。一人でにぶつかるわけはない。


 割れて、歪んだ車体からみえるかぎり運転手はエアーバッグふして頭から血が。

 

 早く電話をしないと、わたしは立ち上がろうと手をつく。


 パッシ。


 何かを手のひらで押しつぶしてしまった。

 な、なに?

 それにうす汚れた白い塊。

 

 塚からこぼれ落ちた何か………


「ひっ!」


 わたしは息を呑む。


 視線をのばす見える範囲で、一つ、二つ、三つ、四つ。

 散らばっているのは……頭蓋骨。


 それもいくつも。

 

 三辻の塚はえぐれ、今にもくずれそうだ。

 その塚の中に何かがいる……


 視線を向けると、塚の中に人骨がみえる。


「あっ、ああ」


 それが動く。


 ゆっくりとわたしに向かうように立ち上がった。


 立ち上がるはずのない無機物が、黒い眼窩がわたしをみている。


 あばら骨に錆びた鉄の棒がはさまっている。

 滑り出すよう化け物はうごく。


 ヒタ……ヒタ……ヒタ


 歩いた。

 

 汚れ、朽ち傷だらけの骨、そして、何故か、艶のある黒い頭蓋骨……


「あ、ァァァ~」


 腰が抜けて逃げられない。

 わたしはないはずの瞳に射すくめられている。

 動けない。


 骨が手をのばし………








 そして、崩れた。 

 散らばった人骨の群れ。

 この塚に何人、収まっていたのだろうか。


 わからない。 

 そこに、なぜか狐が集まってきて、わたしをみている。


 ここまで、だった。

 わたしの意識は抜け落ちた。


 闇の中へ沈む。

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