第1話 いつもどおりの日常に嫌悪を


 わたし、三条みのりは悪夢から目を覚した。


「嫌な……夢」


 ドクロにおそわれる最悪な夢だった……


 なんだったのだろうか?


 ゆっくりとパジャマのボタンを外す。

 冷や汗だらけで嫌になる。

 今から、学校なのに。

 軽くタオルでふく今思い出しても身がちぢむ。


 わたしの家は古くからある名家で、平安の頃に流された公家らしい。


 私には関係ない、今、目に見えるものはむだに大きな家と、土地。


 それが何……私達を縛るだけ。


 わたしは今日もかわりばえしないセーラー服に袖を通す。


 黒ともうしわけのない白のリボン、この令和に個性を殺したようなデザイン……本当に嫌になる。


「おはよう。宗美兄さん」


 リビングに兄の宗美お兄さん。地元に残り郷土史家をおこなっている。

 何が楽しいのかわからないが、ここに残っている。

 よく、名家は自分の歴史をたどる者が出るらしい、華族の末裔にそういった人がいるらしい、兄が言っていたことだ。


「ああ、みのり。おはよう」

 

 わたしの顔を見ないで朝のあいさつ……

 

 古文書をよんでいるのだろう。

 こういった古文書は百以上存在していると聞く。

 日がな一日なにをやっているのだろうか……

 

 そんな兄をしりめに私はドアノブに手を伸ばす。


 ……つまらない場所。


 ーーーーー


 適当に舗装された道路、左手に冬の海岸。

 大した店もない田舎。

 それがこの町。


「みのり、おはよう〜」


 この場所でメイからの朝のあいさつ。

 三辻は町の最も大きな交差点だ。

 いつものこの場所で彼女と合流する。

 もう、予言と変わらない。


 幼なじみの森田メイ。伸び伸びとした朗らかでわたしのいやしの友達。

 きっと、彼女はこの土地に悪感情をもっていないのだろう。


「宿題やってきた」

「もちろん」

「ねえ~ 写させて」


 このたわいないやり取りをくりかえす。

 きっと、わたしの宿題を目当てでやってない。

 メイらしい。こんなふうにわたしはゆるしてしまう。


 塩をふくんだ風をかんじた。

 この土地は海辺の町だ。

 風にも土にも塩が混じるにごった土地。

 ふと、三辻から誰かがこちらを見ている気がした……


 わたしは振り返る。


 そこには、いつも通りの登校中の学生と散歩中の年寄りばかり。

 変わり映えのない景色だ。 


 なんだ。


 うん?


 おなじ制服を着た長い髪の女の子がいた気がする。

 三辻中学校はきびしい校風 その中でそんなに長い髪を伸ばすことはできないはずなのに……


 そして、何匹かの狐が見える。

 

 急ぎふりかえると、そこに誰もいない。


「どうしたの~」


 どこまでも意識に残る気配。

 ついてくる……


 けどそこにいない。


 それは今日、一日続いた。

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