終章2・呪い……祈り、続いていくモノ

「吉野に力をあたえん」


 平伏したまま御簾の向こうを仰ぐ。

 俺は紺色威の腹当に大太刀という、まさに毛脛むき出しの悪党の姿。


 そんな最下級の悪党と邪流の僧侶、まさにお似合いだ。


 高貴な血と頭蓋骨で力をえる。

 御簾の向こうにいるあの男の願いをかなえる。

 あの男をこの国の王とする。


 威光ある神の裔だろうと、俺達は恐れはない。

 力を証明して、成り上がる。


 その為に、底辺の悪党を呼んだのだろう。

 汚れ仕事こそ、悪党の誉れ。


「その血と肝が、陛下に栄光を三条の骨と肝で力をえ、三条の家を奪い取り、その力で南をたすける」


 僧侶は悪党とともに自らの欲望をかなえようとおぞましい企てをたてた。


「我ら和田党の、この三郎がやりとげてみせまする!」


 その男の瞳は鬼のようにおぞましく笑む。


 御簾の奥の男は不満げに笑みを止め


「ふむ、三郎では品がない 余の一文字、尊は高貴すぎる、では高の字をくれてやろう。

 そして、和田党の主から正の一字を、そう高正、奪う名から三条三郎高正と名乗れ」


 御簾の男の高い声が満足げに与える。


 高貴な宮から与えられた名に三郎の腹が決まった。


「ははは! 必ずややりとげまする!」


 そうだ、まちに待った長袴を履く身分へ近づいた瞬間的だ。


「高正……それは良き名をもらったのう」


 僧侶が高正の肩をたたいた。

 これから行うおぞましい企みに違をとなえるものはいない。


 そう、寺に集う男達に正気はなく、狂気の中にいた。


ーーーーーー

  

 なにか、ゾッとした景色をみた気がする。

 

 まちがえた始まりから……生まれたモノ。


 南北朝から室町は、狂いの時代。勝ち残った足利将軍家です心理的に異常な状態にあり、普通ならありえないミスから、歴史用語に観応の擾乱というものがある。


 擾乱という用語は日本史ではここでしか使われないほど、ぐちゃぐちゃに乱れ果てた乱の事だ。

 そう、荼枳尼天の呪いや祟りがムダだった言えないほど、はっきり掴みきれない時代。


「高貴な者の肝や心臓を荼枳尼天に与え、願いを叶える」


 たぶん塚はその呪術の行われた後だ。

 恐ろしさにふるえてしまう。


「その願いって……?」

  

 息を呑み続きをまつ。

 冷や汗が落ちる中で宗美兄さんが口にする。


「南朝の勝利とか? わからないぜ。そこまでは」


 おどけたように笑う。


 そして、真顔に戻り……続ける。


「末代まで呪ってやる」


 冷たい言葉を口にした……


 急になに……


「……乗っ取られた三条家には、真の三条家から祟りをうけた。

 そのための塚にいくつも呪法を駆使し、封じ込めたんだ」


 例えば、当時、死者を封じこめ、死肉をくらう荼枳尼天の足元に塚を作る。


 そして、頭蓋骨に漆を塗りこめる……


 これらはあの時代によく使われる呪術だ。

 

「まぁ、日本人は弥生の頃から死者の魂に恐怖していた……いわゆる御霊信仰だな」


 いつもの饒舌な兄の姿だった。 

 そんな恐ろしい祟りを封じこめられる事ができたのだろうか。

 でも、あの頭蓋骨、狐は何者だったんだろう? 


「なぁ、みのり。祟られない方法がわかるか?」


 不可解な質問。

 いうには頭蓋骨に漆をぬって、荼枳尼天で封印させた。


 南北朝、いまとは別の時代……常識は通じない。そんな禍々しい技術以外にすること……


「わからない」


 わたしが首をふる。


「満天という名前が系図にある」


 あの骨が口にした名前だ。


「当時、女性は名前が書かれず、〇〇家女としか、系図に書かれない。しかし、彼女だけは名前が書かれ、代わりに家が書かれていない」


 骨や狐にとって大事な名前、夢の中の出来事が本当なら、氷室に匿われた女の子。


「つまり、三条の親族となれば呪われない。

 俺達はあの骨とY染色体はつながらないがDNAはつながっている。満天は俺達と三条をつなげる女性だったんだ」


 そうか、だから嫁に迎い入てる事にした。

 結果的に数百年祟りを封じこめ、死者を成仏させた。


「あと、出土した荼枳尼天増だ。ここまで、やったんだよあいつらは」


 兄は嫌悪をしめした荼枳尼天増。

 けど、わたしは愛おしさを感じていた

 

 狐に女神がのっている。

 これが、出土した荼枳尼天像、なんだか『実』に似ている気がする。


 優しい狐の少女の姿をわたしは思いだす。


「あの狐が守ってくれてた……」


 そんな気持ちを感じる。

 きっと、本当はヒドイ殺されかたした人たちと一緒に守り癒やし、そばにい続けてくれた。

 

 一緒に眠っていた女の子の気持ちがこの荼枳尼天に宿ったのかもしれない。


 そんな事を思う。


 わたしはベットから窓の外をみる海のちかい町。

 塩の匂いの中で、稲荷はこの町を守り続けていたに違いない。


 そして、満天の子孫のわたしたちを守り、癒やし、守ってくれていた。


 それはきっと、日本中にある。

 呪い、祟り、そして、続く祈り、そして愛、そんな感情が日本をおおっている。


 わたしたちの過去の繋がりが今を守りを続けている。

 これからも、いつまでも、実という狐が福音を与えてくれたように、ずっと、続いけていく……


  

          

                  終

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

狐塚にはらむモノ なつきネコ @natukineko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ