第10話決死のダイビング!…と思ったら
「じゃあ、誰がコードを切ればいいんだよ」
はっきり言って色さえ間違えなければ誰でも構わないと思うのだが、子豚に言わせればこういう時の当事者の運勢は、無視が出来ない重要なファクターなのだそうだ。
「なんたって周囲数十メートルの人間の命が懸かっているのよ! 用心するに越したことはないわ!」
普段ならば真っ先に自分がやりたがるのだが、今回はさすがに責任が重いのか慎重な意見の子豚。最初はお互いに視線を送りあっていたが、暫くするとその視線はある一人に集中していた。
「アタシ?」
いつのまにか皆の視線が自分に集中している事に気付き、自分の顔を指差し疑問符を唱えるてぃーだ。
「やっぱり、この中で一番頼りになるのはティダしかいないよ」
「私達の命はティダに預けるわ」
「ティダがんばれ~!」
「言っておくけど、『青』って決めたのはみんなだからね? 間違えても文句言わないでよ?」
爆弾の起爆装置のタイマーは既に5分を切っている。ここでもしてぃーだが『嫌だ』なんて言おうものなら、ガチでタイムオーバーになりかねない……てぃーだにはもう、選択肢なんて無かった。
♢♢♢
「じゃあ、『青』を切ればいいのね」
若干の緊張した表情を作りながら、シチローから受け取ったニッパーを手にして爆弾に対峙するてぃーだ。本心では、(こんなの誰が切っても一緒なのにめんどくさ……)と思ってもそんな事は決して顔には出さない。そして、いざ切ろうとなった時……
「ちょっと待ってティダ!」
寸前のところでシチローが呼び止めた。
「なによ、もう!」
「もし失敗したら命は無い訳だろ……もしもの為に何か記念になる事をしておかない?」
「じゃあ、ティダにきれいな『詩』でも詠んで貰おうよ♪」
この時間がない時によくそんな事思いつくなと半分呆れながらも、てぃーだは趣味で詩を書いていたので、ひろきの要求に応える事自体はやぶさかではなかった。
「分かったわ、じゃあ即興だけど……」
§§§ 夕焼け §§§
真っ赤な夕焼けがもうすぐ沈む
海も大地も真っ赤に染め上げ
それは今も昔も変わることなく
偉人も 愚者も 富む者も 貧しき者も 隔てる事なく
すべてのものを真っ赤に染めて……
ちょうどその頃、六本木ヒルズの窓から見える風景は夕日を浴びて美しく真っ赤に染まっていた……
てぃーだは、感情のこもった声で更に詩の朗読を続けた。
「真っ赤な、真っ赤な! ……あか…い・・・い?」
急に途切れたてぃーだの朗読に、感動で瞳を潤ませたままの子豚が顔を上げた。
「どうしたの? ティダ……(泣)」
「夕焼けの詩を詠んでたら、思わず赤い方切っちゃったわ……」
「え・・・・・・・・」
「逃げろおおおお~~~っ!」
アクション映画の爆発シーンのように、4人は爆弾に背を向け可能な限り遠くへと勢いよく一斉に跳んだ!
……のだが、なぜか爆弾は爆発しなかった。
リモコンのカウントダウンは既に【00:00】を指している。
「もしかして、不発?」
シチローが薄目を開けて振り向いたその数秒後……
ポロッポ~♪
ポロッポ~♪
子豚が無表情で呟いた。
「ハトが出てきたわ……」
それと同時に羽毛田の顔が歪んだ。
「持ってくる爆弾間違えた……」
☆☆☆
ちょうどその頃……尊南アルカイナ本部の前には、けたたましいサイレンを鳴らした消防車が数台到着し、中から慌ただしく飛び出して動き回る消防士の姿があった。
その様子を見物しながら、ご近所の主婦達がヒソヒソと噂話を始める。
「あのお宅、この間車が突っ込んで爆発騒ぎがあったばかりなのに、また爆発ですって」
「いやぁねぇ~。ホント、どこかに引っ越してくれないかしら……」
おしまい♪
チャリパイEp.2~東京爆破テロを防げ!~ 夏目 漱一郎 @minoru_3930
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます