第5話羽毛田の逆襲

 酔っぱらって記憶を無くしたかと思ったが、てぃーだのスマホには前もって録音していた六本木ヒルズのビルの花火(おそらく爆弾)のことを語る例の怪しい男達の会話が残されていた。


「アタシ、いつこんな物録音したのかしら……」


「おいおい、ティダだけが頼りなんだからしっかりしてくれよ」


昨夜の大騒ぎをと言うてぃーだに、危なく潜入捜査が大失敗に終わるところだったと胸を撫で下ろすシチロー。


そのスマホの音声を再生し、必要な情報だけを整理する。


「次の日曜日に六本木ヒルズのビルで決行か……もしこれが実行されたら、被害は甚大だな……」


腕組みをし、辛辣な表情のシチロー……その両肩に大きな重圧が掛かっていた。



♢♢♢



一方、【尊南アルカイナ】では……


「ボス、いよいよ今度の日曜日決行ですね」


「まあ、テロの方は計画通りにやるとしてだな……」



計画を前にして、ずいぶんと不満そうな表情の羽毛田。その顔にはシチローと殴り合った時のアザがまだ痛々しく残っていた。


「何か問題でも……?」


尊南アルカイナの精鋭部隊の一人 通称『サト』が、なにか言いたそうな羽毛田の本意を尋ねた。


「あいつだよ、あいつ!」


「あいつとは?」


羽毛田の言うというのは、おそらくシチローの事だろう。羽毛田はこの間のシチローのスーパーでのやり取りをまだ根に持っていた。しかし、一度会っただけなので、シチローの名前も住んでいる場所も知らなかった。


「くそっ! 考えれば考える程腹が立つ! 何とかあいつの情報を手に入れてぶちのめさね~と気が済まねえ!」


「しかしボス、名前も住所も判らなければさすがに……」


「くそっ忌々しい!」


羽毛田は、怒りに任せて目の前のテーブルを力任せに掌で叩いた。すると、その刹那……掌のすぐそばにあった一枚の新聞広告の写真に目を奪われた。


「ん?……」



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「見つけた! こいつだっ!」


その広告には、満面の笑顔でピースサインをするシチローの写真が広告のおよそ半分を占めて掲載されていた。


「しかし、なんてセンスのない広告なんだ。通販の【不思議ペンダント】のコピーかよ……」


確かにセンスは最悪だったが、その広告には羽毛田の望む情報……シチローの名前と森永探偵事務所の所在地が全てしっかりと載っていた。


「よし、それじゃあさっそく今夜か」



♢♢♢


それとほぼ同じ時刻、森永探偵事務所では……



「ところで、テロとは関係ないんだけどさ……昨日、に出してた車が戻って来たんだよね。それで試運転がてら、明日みんなでドライブに行かない?」


車の改造なんてほとんどシチローの趣味の世界だが、シチローは映画【007】のボンドカーに憧れて時々自分の車を馴染みの工場へと預けていた。


「行こう行こう、海沿いとかドライブしようよ」


「お弁当は忘れないでね」


「でも、調子に乗って飛ばしすぎないでよね」


それでも、遊びに行く事に関してあの三人が反対する訳がない。


「じゃあ明日、決まりだね」



その深夜……森永探偵事務所の庭先に怪しくうごめく二つの怪しい影があった。



『ボス……仕掛けて来ましたぜ、爆弾』


『フハハ……時速60キロでセットされ、そのあと40キロ以下になると爆発するだ』


『キアヌ・リーヴスの映画【スピード】のですね』


『パクリって言うな! と言え!』



♢♢♢



そして翌朝……


「いやあ~天気もいいし、絶好のドライブ日和だ」




恐ろしい、が始まった……






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