第9話爆発しちゃうよ!
思いがけないシチローの背後からのカンチョー攻撃に、羽毛田の集中力は完全に途切れた。
「今だ! みんな、羽毛田を捕まえろ!」
「おおおお~~~っ!」
シチローの号令のもと全員で羽毛田を取り押さえた後、子豚が爆弾とリモコンを取り上げる。
「やったわ! これで爆破テロは失敗ね」
子豚は、もしかしたらこの後行われるかもしれない新聞記者からの囲み取材を想定して、とびきりのドヤ顔でポーズをキメる。
「どう? ひろき、わたしキマってるでしょ♪」
「うん、キマってるけど、コブちゃんが持ってるそのリモコンの数字、なんだか止まってないみたいだよ……」
「え・・・?」
よく見ると、子豚の持つ爆弾のリモコンの液晶ディスプレイには【9:52】から更にカウントダウンしながら点滅するタイマーの数字があった。
「ぎゃあああああああっ!」
「コブちゃん、もしかしてリモコンのスイッチ押したのか!」
「知らないわよ! 気が付いたらこうなってたんだから!」
「コブちゃんじゃないとしたら、羽毛田か!」
「馬鹿野郎! お前がいきなりカンチョーなんてするからだろ!」
「そうよ! あの状況でカンチョーする必要なんてなかったのよ!」
「結局シチローが悪いんじゃないの!」
「シチロー、なんとかしろ~!」
ここにいる全員の意見を総合すると、不可抗力でリモコンのスイッチを押した羽毛田は無罪。むしろその羽毛田がスイッチを押す原因を作ったシチローに責任があると意見がまとまった。
「わかったよ! オイラが爆弾をなんとかすりゃいいんだろ!」
シチローはさも不機嫌そうに口を尖らせてぶつぶつとなにか呟くと、上着のポケットを探って携帯用の工具セットを取り出し爆弾を解体し始めた。
「確かこないだ観た映画では青いコードを切れば爆発しなかったんだよな……」
「何か怖い事言ってるけど、ホントにシチローに任せて大丈夫かしら……」
「う~ん……でも、その前の映画ではたしか赤い方のコードを切ってたんだよな」
「どうやらアタシ達の命は、シチローが観た映画に懸かっているみたいよ……」
「……………」
「ど・ち・ら・に・し・ま・しょ・う・か? て・ん・の・か・み・さ・ま・の・い・う・と・お・りっと…………」
「待って! シチロー、もういいからっ! 私達が間違ってたわ!」
このままシチローに爆弾処理をさせる事がどんなに愚かで危険な行為かを、三人はこの瞬間に思い知った。
♢♢♢
「でもさ、結局この『赤』か『青』のどっちかのコードを切ればいいんだと思うんだよね」
ドラマや映画の爆弾処理のシーンでお馴染みのこの展開。もしもそれが綿密な検証に基づくものであるのなら、その確率は1/2という事になる。
「羽毛田は知らないのか? どっちを切ればいいのか」
「知らねえよ! こっちは仕掛ける方が専門だ!」
「でもどちらかって言ったら絶対『青』よね」
「だよな~赤っていかにも危険なイメージだしな」
確率は50/50なのだが、この四人の心情的には極力赤は切りたくはない。散々迷った挙句、四人は青いコードを切る事で意見をまとめた。
シチローはニッパー(コードを切る道具)を右手に握ると真剣な表情で爆弾に対峙する。
「……………」
「どうしたの、シチロー?」
「いやね、オイラ今朝観たテレビの占いが最下位だったんだけどこのまま切っちゃって構わないかな?」
「あ―っダメダメ! そんな人に切らせる訳にはいかないわ!」
既に切るコードの色まで決めているのに、今度は切る人間のことで揉め始める四人。爆発までの時間は、もう5分を切っていた。
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