第7話爆破テロを防げ!①
「シチローの野郎、もう絶対に許せねえ! 今度こそぶっ殺してやる!」
尊南アルカイナの本拠地を爆破され(元々は自業自得なのだが)
その運転をしている部下の『サト』が、独り言のように呟いた。
「ボスの『ぶっ殺してやる』はシャレになんないから怖いんだよな……あれじゃほんとに殺されちまうよ……」
「ん、何か言ったか?」
「いえ、別に。もうすぐ六本木ヒルズに到着しますんで」
「そうか、概ね計画通りだな」
腕時計を眺め、ニヤリ片方の口角を上げる羽毛田。この日は丁度、犯行予告の日曜日だった。
♢♢♢
一方、森永探偵事務所では……
「あの羽毛田の奴、アッタマきた! 今度見かけたら後ろからカンチョーしてやる!」
「何よその姑息な報復は、迫力の欠片も無いわね……」
「そういう時は『ぶっ殺す』とか『ぶっ飛ばす』って言うんじゃないの?」
羽毛田のせいで大事な愛車が爆発してしまい、大きな経済的損失を被ったシチローは羽毛田に異常な憎しみを抱いていた。そんなシチローを気遣ってか、てぃーだがこんな事を言った。
「でもまあ、今回のテロを防ぐ事が出来たら少しは尊南アルカイナにも仕返し出来た事になるんじゃないの?」
「よし! こうなったら、テロを防ぐだけじゃなく羽毛田の逮捕までやってやる! いいな、みんな!」
シチローは俄然張り切っていたが、子豚の方は何とも言えない表情でてぃーだの方を睨み『余計な事を言わないでよ』と、無言の抗議をしていた。
♢♢♢
やがて、六本木ヒルズに着くとシチローは一際高いビルを見上げながら呟く。
「仕掛けるとしたらこのビルだろうな。なにしろ目立つのが目的なんだろうから」
「ところで、何か作戦はあるの?」
「この人込みの中、奴らを探すのは大変よ」
数多くの企業やテナントが入っているこのビルは、日曜ということもあって多くの人でごった返していた。普通に考えてもこの中から羽毛田を見つけるのは至難の業のように思えるが、シチローは余裕の表情で答えた。
「なぁに、あのツルツルのハゲ頭は、一度見たら忘れないよ! あれなら人混みの中でも、一際目立つ!」
しかし、シチローとは反対にてぃーだは首を左右に振りながら呆れたように反論した。
「馬鹿ね、顔バレしてるのに、そんな分かりやすい恰好で来る訳ないでしょ! きっと変装して来るわよ」
「そうか、その手があったか!」
てぃーだの指摘に、シチローもそれは最もだと納得した。同時にこれでも探偵なのにどうしてそんな事に気付かなかったのかと反省もした。
「ティダのいう通りだよ、いや~オイラとした事が面目ない」
「どうしよう、ヅラなんて被られたら見分けがつかないよ」
「ハゲてない羽毛田なんてイメージが湧かないわよ」
作戦は暗礁に乗り上げたと思われたが、思わぬ救世主がその窮地を救った。
「そんなの、見れば判るじゃないの!」
子豚がさも当然の事のように言い放った。
「え? コブちゃん、それどういう意味」
「言葉の通りよ。ヅラかそうじゃないかぐらい見れば判るって言ったのよ!」
「じゃあ、コブちゃんはヅラと自毛の見分けがつくって事?」
かつら業界の技術の進歩は著しく、ヅラは年々精工になり一般人には見分けのつかないものになっている。
しかし、子豚は胸を張って自信満々に答えた。
「そんなの100%判るわよ!……例えばあそこのオジサン、上手く誤魔化しているようだけどヅラが2ミリ右にずれているわ!」
子豚が指差した男は、一般人では到底見分けのつかないごく普通の髪型をしていた。
「ええ~あれが? 全然普通に見えるけどな」
「間違い無いわ! ひろき、ちょっと聞いてきてちょうだい」
子豚に指示されたひろきは、つかつかと男に歩み寄り……
「あの……オジサンってヅラですか?」
直接聞くなよ……
しかし、ひろきに『ヅラですか?』と聞かれた男は、誰が見ても判る位に激しく動揺していた。折角ヅラが精工に出来ていても、これではヅラの持ち腐れである。
「しかしほんとに見破ってるよ。コブちゃんすげえ洞察力だな!」
「ヅラの見分けで私の右に出る者はいないわ!」
「あまり出たいとも思わないけど……」
「じゃあ、これで羽毛田もすぐ見つかるね」
子豚の特殊な能力のおかげで、この作戦の問題はクリアできたと思われたのだが、現実はそんなに甘くなかった。
☆☆☆
「はい、そこの緑の服の人、ヅラ! ……それからその後ろもヅラ! あと、右から三番目の人もヅラ! ……え~と、それから……」
ヅラ、ヅラ、ヅラ……ヅラのオンパレードである。
「クソッ何でそんなにヅラがたくさんいるんだよ!」
いくら近年、薄毛に悩む人が多いとはいってもこれは多すぎである。
その原因を調べる為にビルを見回っていたてぃーだが慌ててシチローの傍に駆け込んできた。
「シチロー、大変よ! ……警備の人に聞いたんだけど、このビルで発毛相談会の催しが開催されているらしいわ!」
「よりによって、こんな時に!」
「ざっと見積もっても百人以上はいるわ!」
「さすがにこれだけ多いと、羽毛田を見つけるのは難しいわね」
こうして手をこまねいている間にも、羽毛田は悠々とこのビルに侵入しているかもしれない……そんな映像が頭に浮かび、シチローは悔しさのあまり、周りにも聞こえる程の大きな声で叫んだ!
「クソオオオォッ! あのハゲオヤジいったいどこにいやがるんだ!」
「何ィ! 誰がハゲオヤジだ!」
「あ、羽毛田だ」
「しまった! つい!」
つい反射的に『ハゲオヤジ』に反応してしまった羽毛田は、何とも似合わないオバサンパーマのヅラを被っていた。
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