第4話ミイラ取りがミイラになる

 キャバクラ客の中には、明らかに普通とは違う風貌をした三人の男達がいた。


迷彩服の上下に夜だというのに濃い黒のサングラス……丁度、東京都から送られてきた防犯情報に載っていた不審人物の記述と合致する。


(あの男達……まさか全員なんて事はないわね)


てぃーだは探りを入れるべく、その男達のいるテーブルの接待についた。


「初めまして、アタシ今日入った紫織といいます」


「やあ、かわいいコだな。早くこっちに来て一緒に飲もうよ」


他愛もない雑談をしながら、タイミングを見計らって情報を聞き出す。


「最近、なんかパッとしなくてストレスたまっちゃうのよね……お客さん、何かスカッとするようなイベントみたいなもの知らない?」


そんなてぃーだの誘導に、男の一人が少し得意げな口調で喋り始めた。


「スカッとするか……それなら、のイベントがあるよ」


(よし、かかった!)


「え~っ! とっておきって何? アタシに教えて~」


てぃーだの甘えた演技に気を良くした男は、調子に乗ってべらべらと喋りだす。


「今度の日曜日に、とっておきのが六本木ヒルズのビルで上がるよ。……もっとも、観に行かない方がいいと思うけどね」


(今度の日曜日に、六本木ヒルズのビルで花火か……)


というのは、おそらく爆弾の事を言っているのだろう……てぃーだは、そう解釈した。


てぃーだは、その会話を男達に気付かれないようにそっとスマホに録音していた。


「へぇ~、花火かあ~それは楽しそうね」


「まぁ、楽しいっちゃあ~楽しいわな」


そう言って男達は、顔を見合わせて意味ありげに笑った。



☆☆☆




 まずは無事にミッション達成!と、てぃーだが一息ついている所へ……隣のテーブルから子豚が慌てた様子でやって来た。


「ちょっと、ティ……じゃなくて紫織、向こうでが大変なのよ!」


「彩香が?」




彩香(ひろき)のテーブル




「ビールおかわりぃ~」


「一体どんだけ飲むんだ、この娘は!」


最初はひろきを飲みっぷりがいいなんてはやし立てていた客だったが、そんな余裕は次第に恐怖へと変わっていった。


「すみませ~ん、ビールもう一杯……」


「やめてくれええええ~っ! もうこれ以上はっ!」


その様子を見たてぃーだは、困惑した表情で子豚に事態の収拾を頼んだ。


「あらら……コブ……じゃないさん、ちょっと彩香を止めてきてくれない?」


「わかったわ! ったくひろきったらしょうがないわね!」


当初の目的を完全に忘れているひろきに呆れながら、子豚はひろきを止めにテーブルへと歩み寄った。


「ちょっと彩香、ビールのおかわりはお客さんの了解をもらわないと……」





その30分後……







「オラオラオラァ~、もっと酒持って来んかああ~っ! どうせわたしゃあだわよっ!」


ミイラ捕りがミイラになったようである。


その様子を横目でみていたてぃーだは、こうなる気がしていたと溜息をついて、今度は自分が事態の収拾に動いた。


「ねぇ、二人とも、もっとおとなしくしないと……」


「あっ、ティダだ♪」


「ティダも飲めええ~!」







1時間後……






「もっとドンペリ持って来おおお~いっ!」


ミイラが一人追加……



ハイセンスでお洒落な店の雰囲気はぶち壊し。さっきまでにこやかな笑顔だったきた。




「お前ら全員クビだあああああっ! 出ていけええええっ!」



♢♢♢




 店を追い出された三人は、おぼつかない千鳥足で帰路についた。



「気持ちワル……」


「ところで私たち、何しに来たんだっけ……」


「あたしたち、時給もらえないのかな……」


「ドンペリとか勝手に開けちゃったからね……店長激怒してたわ」


「アタシもんだけどなぁ……なんだっけ?」


まったく、本当にエージェントたちである。


森永探偵事務所では、この三人を送り込んだシチローがその帰りを待っていた。


「三人とも遅いなぁ、悪い客に捕まって無理に酒でも飲まされてるんだろうか……」





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