11話.私、婚約破棄しちゃいますね(中編)

「何を言うのかと思いきや……

デタラメも良いところです!」


顔を真っ赤にしながらトーレラはそう怒鳴りだした。


「私がレイ様と婚約するために、あなたを陥れたですって!?」


「そんなことがあるわけないでしょう!

仮に1年以上前から知り合いだったとしましょう」


「それと貴方が私にした仕打ち、

なんの関係があるんですか?」


「卑怯な手を使って自分の罪から逃げるのはやめたらどうかしら!」


髪をおおきくかきあげながら、

自分は悪くないと言い切るトーレラに私はもう一度訪ねる。


「私の罪とはなんでしょう?」


「だから私を毎日のようにいじめを……」


「具体的には何時ですか?

私はあなたとお会いしたことなんて一度しかないですよ?」


「は…一度?」


「えぇ、先日のお茶会に招待頂きましたわ」


「一体なにをおっしゃっているのか……」


「士爵程度すぐに潰せると言われたリリア・クッキーですよ」


「あなたがあの生意気な女!?また魔道具ですね!

あの忌々しいリード家の女が手助けしたんでしょう!」


「あら、士爵程度潰せるといったことは否定しないんですね」


「それに同じ男爵位のリード家を忌々しいだなんて…

裁判中の言動は全て記録されているのをお忘れですか?」


「あっ、その…今のは何かの間違いで……」


思わず慌てるトーレラ。


……どうやらうまく論点ずらしができたみたいで良かった。


正直なところ、記録した音声は彼女の言うとおり、

私がトーレラにした行為への釈明にはならない。


だけど彼女は自分の嘘を嘘とは認めないだろう。


だからこの裁判中で揺さぶりをかけて――嘘を暴く。


議論中はよほどのことがない限り、

立会人からのアクションは起こらない。


私はここぞとばかりに揺さぶりをかけていく。


「間違いとはどの辺りですか?

私があなたと出会ったという嘘?私に暴言を吐かれたという嘘?

それとも……クラブ家の公子と不義を働いていたというところですか?」


「不義なんて働いていません!

私とレイ様は貴女よりずっと前から愛し合って……!!」


「おい!やめろ!!」


トーレラの語りを止めたのはレイだった。


「俺とトーレラ公女は最近会ったばかりで、

今まではなんの繋がりもない!」


「レイ!お前に発言権は与えていない!

次に勝手な発言をしたら出て行ってもらうぞ!」


「しかし父上!」


「黙れ!!!」


そしてすぐにクラブ伯爵から警告を受ける。


レイは渋々と言った感じで再び席に座った。


「あら、おかしいですね?」


「レイ様は最近会ったと言っていますが、

トーレラ公女は1年以上前から知り合いだと言ってましたよね?」


「それはどういうことなのでしょうか?」


「いえ……それは…」


予想外の出来事に黙り込んだトーレラに、

私は更に言葉をたたみかける。


「そもそも、私とレイ様はまだ婚約破棄していないんですよね」


「はぁ?」


不思議そうな顔をしているが、

不思議なのは私の方だ。


「貴族の婚約って言うのは子ども同士で辞めます。

はいそうですねなんて訳にはいかないんですよ」


「クラブ伯爵にご確認しますが、私とレイ様の婚約はまだ有効ですよね」


「もちろんだ。私とエンポリオ伯爵で決めた婚約で、

私たちは婚約破棄の話なんてしたこともない」


クラブ伯爵はあくまで淡々と質問に答えてくれた。


「ありがとうございます。ということです」


「つまりあなたは現在進行形で他人の婚約者と、

愛人関係にある最低の人物と言うことですね」


「そんな!?だってレイ様がすべて解決したって……あっ」


「あら?レイ様が?

それはいけませんわね」


「2人で私を陥れようとしたんですか?」


「貴族の風上にもおけない行為をしておいて、

私に罪を擦り付けようとしたんですか……?」


「擦り付けようとなんてしてません!

全部本当のことです!」


彼女の言葉を聞いて、

私は裁判場に響き渡るような声で叫んだ。


「みなさん!確かに私には彼女に暴言をはいていない。ということを証明はできません」


「だけどここにいる皆様なら、私の潔白を証明できるはずです!どなたか私とトーレラ様が一緒にいた場面を見た人はいますか!?私が誰かをいじめようとした場面を見た人は?」


「私はここに来てから一度も嘘をついておりません!対してトーレラ様は嘘で塗り固めた虚言ばかり!

皆様はどちらを信じますか!」


しん…と静まる室内。


どうか私の言葉が届きますように…

私の願いに周囲の反応は――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る