3話.お父様を宥めるのも大変です
「お帰りなさいませ、お嬢様」
使用人たちから出迎えを受けつつ、
私は屋敷の中に入る。
いつみても完璧な立ち振る舞いで私を出迎えてくれる
使用人たちは屋敷の誇りだと思う。
「えぇ、戻ったわ。それで悪いんだけどお父様に急いで会いたいの。
今はどちらにいるのかしら?」
「伯爵様は書斎で調べ物をしていたかと…」
「そう、ありがとう。それじゃあアン行きましょう」
「はい、お嬢様」
執事にお父様の場所を聞いて、
アンと共に書斎へと向かう。
お父様は読書家で時間があると、
歴史書を読んで色々とお勉強しているらしい。
私には興味のない分野だから、
詳しくはわからないのだけどね。
少し歩いて書斎に到着。
軽くノックを繰り返すと、
部屋の中から声がした。
「だれだ?」
「私です。お父様」
「おぉ、リアか!入りなさい!」
「はい。失礼いたします」
キィと軽く木がきしむ音と共に、
ドアが開く。
中にはまるで読書なんてしそうもない、
大柄で筋肉質な男が片手で本を10冊ぐらい持ちながらこちらを向いていた。
この人こそ私の父。
ソード・エンポリオ伯爵だ。
「読書中に申し訳ありません」
「構わない。それでどうしたんだ?」
「ちょっとここでは…
できれば人目のつかない場所でお話したいです」
「それでは私の部屋に行こう。
警備も防音も間違いなくこの屋敷一番だからな」
「お気遣いありがとうございます」
そうして父の部屋に行ったあと、
私はレイに言われたことを一言一句洩らさずに伝えた。
最初の頃は真面目な顔をしていた父だったが、
話が進むにつれて段々と顔が真っ赤になっていき…
話が終わる頃には殺意が全身から漏れ出すほどに
怒り狂っていた。
「よし、話はわかったぞ」
「ありがとうございます。
今回は私の落ち度により婚約破棄されてしまい申し訳ありません」
「如何なる罰も受ける覚悟です」
政略道具が役目を果たせなかったのだ。
もはや家にとって私は役立たずだし、
父も私に向かって怒り狂っている。
謹慎程度で済めばいいが、
最悪縁切りもあるだろう……
今まで貴族として甘やかされて生きてきた私が、
外の世界で生きていけるだろうか?
そんな不安に駆られていたのだけど、
全て杞憂だと気付くのに時間はかからなかった。
「アンよ…今すぐここに騎士団長を呼んでこい。
あのふざけたガキと家を血祭りにあげてやるわ!!!」
「よりにもよって、我が娘にたいして事実無根のあり得ない侮辱。
到底許せん!」
「いや!!!そもそも俺はあんなチャラついたガキとの結婚なんて
元々乗り気じゃなかったんだ!」
「うちの娘ほどの美人で聡明で完璧な娘が、
あんななよなよした男の元に行くなんて……許せるかぁ!」
「いい機会だ……家ごと打ち滅ぼしてくれるわ!」
「伯爵様!一番槍はこのアンにお任せください!
必ずや血路を切り開いてみせましょう!」
え…えぇ……どうなってるの??
戦争する気満々の父に、
馬車の中と変わらず好戦的なメイド。
我が家ってこんな戦闘民族みたいな雰囲気だったかしら……
放っておくと2人で大盛り上がりして、
本当に攻め込むような勢いだったので(多分冗談だったと思いたいですね…)
2時間私は気にしていないことと、
伯爵同士で争いなんて国にとって百害あって一利なしということを
3時間説得し続けて、ようやく父も落ち着きを取り戻してくれた。
……お父様って私が思ってるよりも親ばかなのかもしれないわね。
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