10話.私、婚約破棄しちゃいますね(前編)

裁判をすると決めてあれやこれやと翌日の夕方。


私は変装した姿ではなく、

ありのままの姿でトーレラの前にいた。


そう、貴族裁判のためだ。


家に帰ってすぐ父に貴族裁判について話をすると、

すぐに早馬を飛ばして裁判の話をつけてくれた。


トーレラ・・・アール家は男爵なので

伯爵であるエンポリオ家の命には逆らえない。


立会人を頼んだクラブ家も何故か乗り気で、

すぐに立ち合いを承認してくれたのでスピード裁判を開けたのだ。


クラブ家にメリットなんてないはずだけど・・・

やっぱりレイの早とちりだったのかしら?


なんて考えているとカンカンと音が鳴り、

低く威圧的な声が聞こえた。


「それではこれよりエンポリオ伯爵の娘。

リア公女からの訴えにより貴族裁判をはじめる!」


「まずはリア公女。なにを訴えるのか述べて欲しい」


貴族裁判は国で行われる裁判と違って、

なにかしら罰や賠償金を請求できるわけではない。


その代わり、ここで正しいと認められたことは、

王族の名のもとに正しさが証明されるのだ。


誇りと名誉を重んじる貴族にとって

謀略によってそれらを取り戻せる貴族裁判は、

通常の裁判よりも重要視されるほどだ。


私が訴えたいことはただ一つ。


「トーレラ公女が私を陥れたことを証明できればと」


「私がリア公女を陥れた!?

あんなに酷いことをしておいて、

よくもまぁ被害者のようなことが言えますね!」


私の発言にすぐさま反論を返すトーレラ。


「発言は許可を貰ってからするように」


「は、はい・・・申し訳ございません」


そしてすぐに怒られるトーレラ。


傍聴席にいるマイアがクスクス笑ってるのが見えた。


「それではトーレラ公女。リア公女の訴えに関して申し開きはあるか?」


「もちろんでございます!彼女は私を毎日のように嘲りいたぶってきました!

少しでも言い返そうものなら男爵程度いつでも潰せると脅しまでかけて・・・」


「とても辛い日々だったのですが、

つい先日偶然出会ったレイ様に助けて頂いたのですわ」


「これでようやく、

平凡な日々が過ごせると思っていた矢先に貴族裁判なんて・・・」


顔を伏せて泣き始めるトーレラに、

周りは同情的な視線を投げかけているのがわかった。


マイアと同じく傍聴席にいたレイも、

得意げに笑っている。


確かに演技が凄くお上手。

私にだけ見える角度で

意地の悪い笑みを浮かべているところも、

高評価ね。


うんうんと納得していると、

私の番がきた。


「彼女の発言に対して異議は?」


「あります」


当然即答。


「私は彼女と出会ったこともないですし、

ましてや嫌がらせをしたこともありません」


「ただ、何故彼女がそんな嘘を吐いてまで、

私を陥れようとしたのかは知っています」


「証拠を提出しても?」


クラブ伯爵が頷いたのを見て、

私は用意してあったアレを取りだした。


そうタイムレコードだ。


確か・・・丸いくぼみを押すんだったわよね。


マイアに聞いた通りボタンを押すと、

あの声が響き渡った。


「レイ様とは一年以上前からの仲なの」


その声は明らかにトーレラのもので、

彼女とレイは驚愕の表情をしていた。


「それは…魔道具か?」


「えぇ、タイムレコードと言って、

1分間だけ他者の言葉を記録できる魔道具です」


「とある協力者から頂きました」


「それで・・・その魔道具の発言と、

リア公女を陥れた理由の関連は?」


クラブ伯爵の質問も予想通り。


「ご存知かと思いますが、

私はレイ公子と婚約をしておりました」


「以前より不義を働き恋仲だった二人は、

私から婚約者という立場を奪うために一計を案じたのかと思われます」


「その証拠になるかはわかりませんが、

彼女はさきほどレイ公子と先日偶然出会ったと話していましたね?

しかし、魔道具の証言から分かるとおり、

2人は1年前以上前から出会っています。」


「それにいくら私と婚約破棄したとはいえ、

その翌日に新しく婚約を結ぶのも不自然では?」


すらすらと私の意見を述べてから、

すっと私は一歩下がる。


これは議論中に相手に発言を譲るという合図。


さて、トーレラはどうでるかしら?

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