6話.優雅なティータイムをいたしましょう(後編)

「まっ!確かにこのお菓子は絶品ですね!」


マイアにさぁさぁと勧められたお茶菓子を、

ぱくりと食べてみるとこれがびっくり。


とんでもなく美味しい。


最初はただのクッキーかと思っていたら、

口に入れた瞬間サクっとした感覚とミルクの甘い香りがただよって・・・


とにかく美味しかった。


「お口にあったのなら何よりです。

それでリアの相談とはなんでしょうか?」


「あの性格ブスの男を滅ぼす方法ですか?

それとも毒殺?・・・いい茶葉が入ったんですよぉぉ」


先ほどまでの可愛げのある笑みから、

邪悪な魔女のような笑みを浮かべるマイア。


性格ブス男は間違いなくレイのことだとして・・・

前からこんなに殺意マシマシな感じだったろうか?


好いてはいないようだったけど、

ここまでじゃなかったような?


そこまで考えてから、

私はあることに気づいてしまった。


「あのー、もしかしてマイア。

私が婚約破棄されたこと知ってたり・・・する?」


おずおずと訪ねる私に、


「はい!あのバカ男とバカ女がペラペラと言い触らしているので、

全て知っておりますよ!」


「今のところ貴族の中でも情報通の人しか知りませんが、

全体に広まるのは1週間かからないでしょうね」


「なんせ王国でも有力な貴族同士のスキャンダルですから」


そうまっくろな笑みで返事が返ってきた。


明らかに怒っている。


そして後ろからもおぞましい気配がする・・・

多分アンの殺気だろう。


彼女はメイドよりも暗殺者の方が向いてるのかもしれない。


いや、それよりも今マイアは凄く大事なことを言わなかった?

なんなら今日の本題がすぐに終わってしまいそうな・・・


「ね、ねぇマイア?今バカ女って言ってたけど・・・」


「あぁ、リアはご存じないですよね?

リアが婚約破棄された当日にいきなりバカ男が宣言したんですよ」


「俺はこの麗しき女性、トーレラと婚約する!って」


「なんでもリアから酷い嫌がらせを受けていたところを、

バカ男に相談して助けて貰ったのが縁になったんですって」


「それで前々からお互い惹かれていたけれど、

リアからの嫌がらせが怖くて婚約破棄を言い出せず、

今回バカ男が勇気をだして婚約破棄を告げたことで愛する者同士で

結ばれることができた~みたいなこと言ってましたよ」


「余りにもくだらない話過ぎて、

思わず毒殺するところでした」


ふふっって笑ってるけど、全然笑えない。

だって目が本気なんだもの。


「リア様、許可貰ってもよろしいでしょうか?」


「なんの?」


「・・・・・・許可を貰っても?」


「怪しいからダメ」


アンも素振りしながら謎の許可を貰おうとしてるし。


というかたった1日でもう話が広まっているとは、

レイの面の皮が厚いことに驚くべきか。


マイアの情報収集能力に驚くべきか。


でも良かったな。

私のことで怒ってくれるような友人がいて。


「マイアは私のことを信じてくれてるんだね。

嬉しいな」


「そんなの当たり前ですよ!あんな与太話信じる人なんていません!」


「その場にいたほとんどの貴族も微妙な顔していましたし・・・

ただ・・・これを機にエンポリオ家を

失墜させようと画策する貴族も現れるかもしれません」


「そういった野望を持つ貴族にとっては、

今回の話は渡りに船でしょうね」


私のことを信じてはくれているけど、

現状についてはあくまで平等に意見を出してくれる。


だから私はマイアを信用できるんだ。


「私もそう思う。だから、今回の事件はなんとしても

冤罪ってことを証明したいんだけど・・・」


「なにか方法はあるかな?」


私がそう聞くとマイアは難しそうな顔をしながら

答えてくれた。


「うーん、今のところリアが自分で動いて

良いことはないと思います」


「トーレラのことはご存じでしたか?」


「いいえ、今日初めて聞いた名よ」


「そうですよね。彼女は私と同じ男爵家の人間なのですが、

一言で言うと蛇のように狡猾な女です」


「このタイミングで彼女に直談判などしようなら、

間違いなくあることないこと噂が広まっていくでしょう」


「それを権力で潰そうとすれば・・・

なおさら噂の信憑性がますのでは?」


「そうよね・・・

ありがとうマイア」


ということは今は父とクラブ伯爵の話し合いを

待つのがベストってことなんだろうか?


それはちょっと歯がゆいな。


私のことなのに、

なにもできないなんて・・・


ぐっと悔しさに唇を嚙んでいると、

マイアが突拍子もない提案をしてきたんだ。


「でもそれじゃあ、リアの気は晴れないですよね?」


「自分勝手に動いて悪い方向に進むなら、

仕方がないわよ」


「ねぇリア。ちょっと別人に変身してみませんか?」


「へ?」


「・・・なるほどマイア様らしい提案でございますね」


アンはなにか察したみたいだけど、

私はなにがなんだかわからない。


「えーっと、どういうこと?」


「それは変身してみてのお楽しみですっ」


圧のある笑顔でそんなことを言われてながら、

私は再びマイアに手を引かれ屋敷の中に入っていった。


なにをするのかよくわからないけど、

最後にクッキーもう一枚いただきたかったわ・・・

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