7話トーレラのお茶会にお邪魔しますわ(前編)

「できました!」


輝くような笑顔で満足げにマイアは頷いた。


お茶会で急に変身してくれと言われて、

そのままあれよあれよとドレッサーに。


わけもわからずなすがままにされていたら、

この結果である。


「えーっと、これが私・・・?まるで別人ね」


そばかすだらけの肌に、目の下にはクマだらけ。


自慢だったアメジストのように輝く瞳と髪は、

くすんだ赤紫の色に変貌していた。


「これって・・・魔道具を使ったの?」


「そうです!最近手に入れたアイテムで、

自由に対象の顔を変えられるんですよぉ」


「半日もしたら時間切れになっちゃうんですけどね」


魔道具っていうのは、

ときおり見つかる原理が分かっていない道具のこと。


物を作っていると突然変異みたいに生まれたり、

埋まっていたりするんだけど、

だれも原理も何も分からない。


魔法みたいな道具ってことで魔道具と呼んでいる。


それはともかく、凄い効果のアイテムだ・・・


「これは密偵みたいに陰に潜む存在が欲しがるアイテムじゃない?

よく手に入れられたわね」


「骨格とか目の大きさは変えられませんし、

一度使うと1か月は使えないんですよ」


「それに似たような内容でもっと高性能の魔道具があるので、

あんまり注目はされてなかったですね」


「あ、そうなのね」


「それで…どうして私は変身させられたのかしら?」


ただの遊びならそれはそれで構わないんだけど、

なんとなーく嫌な予感がするのよね。


だから恐る恐る聞いてみると、

マイアはニヤッと笑いながら


「実はこれからトーレラがお茶会を開催するんですよ」


と教えてくれた。


「男爵以下の貴族を招待していて、私にも連絡がきているんです」


「それでですね。

リアには私の友人としてお茶会に参加して貰おうと思います」


「もしかしてトーレラから直接情報を収集しようってこと?」


「その通りです!なにもできないのは歯がゆいですし、

それならリアじゃなくなって動けば良いかなと思いまして!」


それはナイスアイディアだ!


トーレラの発言から冤罪を晴らすヒントがあるかもしれないし。



「最高のアイディアね!

早速準備してお茶会に向かいましょう」


「あ、アンは留守番ね」


私がそう伝えると普段表情を変えないアンが、

驚きに満ちた顔をしていた。


「な、何故ですか!?」


「だって・・・アンが私付きのメイドって知ってる人も多いし、

主人がいないのにメイドだけいるのは変でしょ?」


「な、なら魔道具を使って私も変身します!」


「マイアが一回使ったら1か月使えないって言ってたでしょ」


アンはまだ何か言いたそうだったが、

引き際はわかっているようで諦めたようだった。


「トーレラとかいう無礼者を討つのは、

また後日といたしましょうか・・・」


そんな感じの独り言も聞こえたけれど、

聞かなかったことにした。


そうして、私とマイアは悔しそうなアンを置いてトーレラ家に。


――10分後


トーレラ家に到着すると、

使用人がお茶会の場まで案内してくれた。


手入れが行き届いた庭を見ながら、

裏手に回るとそこには既に数人の令嬢が。


「あの中心にいるのがトーレラです」


なるほど。

明らかに場を仕切っている人物が一人いる。


これでもかというほど髪飾りを盛り付けて、

胸元が大きく開いた赤のドレス。


そして鋭い切れ長の目を持つ人物がトーレラだろう。


私を陥れて不名誉な噂を流した張本人。


・・・やっぱり見覚えがない。


もしかしたら私が名前を憶えていないだけで、

なにかしらのトラブルがあった人かな?


とも思ったけれど、

間違いなく一度も会ったことがない。


ということはレイと婚約するために

私を陥れただけで、

恨みとかはないんだろうな。


もやもやした気持ちを抱えつつ、

私はマイアに続いて挨拶をした。


「はじめまして、マイア様の友人で士爵のリリア・クッキーと申します」


「トーレラ様にお会いできて光栄です」


マイアを様付けしたのは基本的に友人関係であっても、

貴族同士・・・まして爵位に差があれば敬称をつけるのが普通だから。


私は様付けが嫌でマイアに頼んで敬称呼びをやめて貰っている。


「はじめまして。

聞き覚えのない家名ですけれど、来る場所を間違えたのではなくて?」


嘲るような声で質問してくるトーレラ。


うーん、この場にアンがいなくて本当に良かったな。


私がさて、どんな返事をしようかと考えていると、

マイアが仲介に入ってくれた。


「ごきげんよう、トーレラ様。

リリア様は私の友人なのです」


「招待状には親しい友人を連れてきても良いと

書いていましたのでお連れしました」


「あら、マイア様。ごきげんよう」


「今日はリア様はお連れにならなかったのかしら?

ほら、あなたってばいつも金魚の糞みたいについて回っていたじゃない?」


「・・・金魚の糞だなんて品がないのでは?」


「あら失礼。品がない人を目の前にすると

ついつい口からもれちゃうの」


トーレラの目の前にいるのはマイアなんだけど・・・

招待状を送るのにこの2人仲が悪いのかな?


他の令嬢もマイアのことをバカにするような目でみているし。


腹が立つなと思ったときには、

既に言葉が口から出ていた。


「その下品なドレスはトーレラ様のご趣味なんですか?」


「は?あなた今なんて?」


トーレラは鋭い目つきを更に鋭くして、

キッとこちらを睨みつけてくる。


気弱な人ならこれだけで黙りそうね。


「あっ!失礼いたしました!目の前に品がない人がいたので

つい口から下品なんて言葉がもれてしまいました・・・」


幸い?私の周りにはもっと怖い人たちがいるから、

睨まれるぐらい全然平気なんだけど。


「まぁ!リリア様!そんな下品な言葉を使ってはいけませんよ?」


「本当ですわね。申し訳ございません」


マイアと2人で茶番をしていると、

トーレラも諦めたのか大きなため息を吐いた。


「いいでしょう。今日は気分が良いので特別に許してあげます。

ただし!次にふざけた口を聞いたら士爵程度すぐに潰しますから」


「肝に銘じます!」


クッキーなんて士爵存在しないから、

潰しようがないんですけどね。


多少のトラブルはあれど、

お茶会には無事に参加できた。


後はトーレラから嘘を吐いた証拠を得るだけね!

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