12話.私、婚約破棄しちゃいますね(後編)

「リア様を支持します!」


静寂の中声を張り上げてくれたのは、

私の一番の親友マイアだった。


そして彼女の名乗りで他の貴族たちも堰を切るように、

次々と賛同の声を上げ始める。



「私もリア公女を信じます!」


「おかしいと思っていたんだ」


「リア公女がだれかを侮辱する姿なんてみたこともない!」


「この嘘つきめ!」


ありがとうマイア。


彼女が真っ先に声をあげてくれたことで、

会場を味方につけることができた。


トーレラの取り巻きたちも見かけたが、

彼等は居心地が悪そうに身を縮めるだけで

彼女の味方をする気はなさそうだった。


信頼関係のない繫がりなんてそんなものよね。


少しだけトーレラが哀れだわ。


そう思いつつ、改めてトーレラを見ると

彼女は真っ青な顔で唇を噛みしめていた。


裁判の決着が済んだことを理解したんだろう。


結局のところ、いくらでも証拠を捏造できる

現代では本当のことなんて証明するのはほぼ不可能。


だからこの裁判で最も大切だったのは、

どちらの言を信用できるか。


この一点に尽きたのだ。


狡猾だと言われていたトーレラだったが

それはあくまで同じ爵位相手に対してのみだったのかもしれないし、

自らより低い爵位の相手に対してだったのかもしれない。


そうでなければ、

ここまで圧倒的に私が支持されることもなかっただろうから。


クラブ伯爵も決着がついたと判断したのか、

ガベル(儀礼用の木槌)を振り下ろして裁判を閉めようとしたときだった。


「まった!」


焦り声のレイの声が聞こえた。


「またお前か!次に発言したら追い出すと言ったはずだ!

警備兵!この馬鹿息子を今すぐ追い出してくれ!」


「クラブ伯爵。お待ちください」


そう声を荒げるクラブ伯爵を制しする。


「どうしたのかね?」


「トーレラ様との結論はもうお済になったでしょう?」


「ちょっと判決はまだ・・・!」


「・・・確かにリア公女の訴えが正当なものだったと、

決めるつもりではあった」


「だが、それと裁判を妨害したことは話が別だ」


「いえ、この公平な場だからこそ宣言したいことがあります」


「私、リア・エンポリオは、

レイ・クラブ公子との婚約破棄を望みます」



「なにっ!?」


私の発言に叫ぶレイ。


「なにを驚いているんですか?

まさか、自分は婚約破棄を申しだされないとでも

思っていたんですか」


「レイ公子のように相手を都合の良い人形に仕立て上げて、

自分が気に入らなければ暴言を吐く」


「そんな相手と私が添い遂げたいとでも?」


「私はエンポリオ家の繁栄のため、

この身を捧げる覚悟であなたと婚約をしていました。」


「しかし、貴族裁判であなたの不義が

間接的に明らかになったいま!」


「エンポリオ家がクラブ家と

婚約する理由は何一つありません!」


「よってこの場で婚約破棄の許可を望みました!」


レイが余計なことを言う前に、

私は一気にまくし立てて

クラブ伯爵に伺いを立てた。


私の後ろで座っていた父は、

とても満足そうに笑っている。


「なんて無礼な女なんだ!俺が先に婚約破棄をしたのだ!

お前程度の女が俺を捨てるなんて許されるわけが――」


「もういい、黙れ!!」


レイの怒鳴り声を更に強い声で黙らせたクラブ伯爵は、

私を見ながら深々と頭を下げた。


「この度は愚息が取り返しのつかないことをした。

大変申し訳ない」


「今回の件。クラブ家で必ず罰を下すため、

それで許してはくれないか?」


「私は婚約破棄さえして頂ければ充分ですわ」


「もちろんだ。お互いに利があってこその婚約だ。

今回の件は間違いなくこちらに非があるからな・・・」


「ありがとうございます。それで充分です」


「さて、これで今度こそ婚約破棄と相成りましたので、

トーレラ様とレイ様は今度こそ婚約なさっては?」


「いばらの道かとは思いますが、

心から応援いたしますわ」


にっこりと笑いながら、ドレスの裾を摘まみながら

ゆっくりとカーテシーを見せる。


「くそっ!待てリア!この俺に無礼を働いたことは絶対に許さな・・・

おい、なんだ!放せ!放せと言ってるだろうがぁ!!」


後ろからレイの無様な声を聞きながら、

私は裁判所を後にした。

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