5話.優雅なティータイムをいたしましょう(前編)

チュンチュンと小鳥のさえずりで目が覚める。


昨日は私の人生の中でも一番大変だったかもしれない。


いきなり婚約破棄はされるし、

その結果内戦が始まりそうになるし…


本当にバタバタだった。


でも朝の透き通った空気と、

カーテンから差し込む木漏れ日を感じていると

そんな大事があったなんて嘘のように思える。


「もしかして、婚約破棄されたのは夢!?」


せっかく婚約破棄されて、

レイの求める理想の伯爵令嬢を演じなくてもよくなったと思ったのに…


夢だったら最悪だ。


「おはようございます。夢ではありませんよ、リアお嬢様」


「あ、あら。おはようアン。

夢じゃないならなによりだわ」


「リア様の名誉が傷つけられたのは我慢なりませんけどね。

ご命令頂ければ今すぐにでも暗殺するのですが…」


「あなた、物騒過ぎるのよ……。

私はあんなしょうもない男に執着するぐらいなら、

自由を謳歌したいの!」


「自由…ですか?」


そう自由。


今までの私は全てレイを引き立てるため、

彼の機嫌を損ねないように過ごしてきた。


でももうそんなことは気にしないでよい!


私の好きにして良いのだ!


だから私はアンににっこり笑ってお願いする。


「そう、自由。だからね…今日は三つ編みで過ごそうと思うの。

編み込みお願いできるかしら?」


「もちろんでございます。

リア様の美しい御髪をより映えるように全身全霊を尽くします」


「ありがと」


以前はレイが


「お前は顔に気品がないから、

髪はストレートにするように」


と言っていたので

ずっと髪型を変えることはなかった。


人に気品を求めるなら自分はどうなのかしら?


そうおもったことがないわけじゃないけれど、

わざわざ余計なことを言ったりしない。


家同士の問題もあるのだから、

私はしずかに従っていた。


「できました。いかがでしょうか?」


そんなことを思い返しているうちに、

アンは見事な手際で三つ編みに髪を結んでくれた。


「ありがとう。とっても素敵だわ」


「お嬢様の髪が美しいからこそです」


そんな感じでのんびりと朝の支度をして朝食後。


私とアンは昨日父に伝えた通り、

リード家に向かっていた。


リード家の娘であるマイアとは爵位の差があれど、

親友といって差し支えない関係だ。


彼女は貴族の中でも情報通であり、

色々とお世話になってもいる。


馬車に揺られること20分。


リード家に到着した私たちは、

マイアの手厚い歓迎を受けていた。


「まぁまぁ!どうしたんですか急に!

リアが来てくれるなんて

今日は何て嬉しい日なんでしょう!」


「レイ公子と婚約してからは、

1月前に約束しないとお会いできなかったのに…」


ここでもレイである。


彼いわく、


「つまらんお茶会に行くなら俺の許可を取れ」


ということらしく

その許可を取るのに一カ月程度かかっていたのだ。


「実はそのレイ様と色々ありまして…。

急な訪問で申し訳なかったけれど、

今日は急ぎの用事はありましたか?」


「ないです。

リアとお茶会をする以上に大事な用事は私には存在しません」


ノータイムでの返答。


ありがたいけど、ちょっと圧が強い。


「それは良かったです。

実は色々と相談したいことがあったので」


「えぇ、えぇ!もちろんなんでもお聞きしますわ!

美味しい茶葉とお菓子が手に入ったので、

召し上がりながらお話しましょう?」


うっきうきの様子のマイアは

私の両手を掴みながら歩き出した。


ここまで歓迎されるとなんだか嬉しいな。


話は…お茶会を楽しんでからでもいいか。


そんな風に思いながら、

私はリード家の門をくぐっていった。

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