最終話「サンタさんからの最高のプレゼント」
「今日、どうしても、かなと一緒に見たいものがあるんだ」
黒須に言われて、私たちは、都心から30分ほど離れたところまでやって来た。改札口がひとつしかない小さな駅なのに、まるで、大晦日の夜、年越しのカウントダウンイベントにために渋谷駅に結集する若者たちさながらの人と熱気で溢れていた。周りを見渡すと、ほとんどが恋人同士ばかりだった。そして、皆、一様に、小高い丘のほうへと向かって歩いて行った。私は黒須とはぐれないように、彼の手をギュッと握った。
傾斜の緩やかな丘を小径に沿ってゆるゆると15分ほど歩くと、頂上に到達した。すらっとした大きな樅の木が星空を見上げるようにして姿勢正しく立っているだけのシンプルな丘だった。
「ねえ、かな、空を見て!」
黒須に言われて空を見上げた私は、その美しさに息を呑んだ。澄み渡った真冬の空に、宇宙の宝石を散りばめたような星たちがキラキラと光り輝いていた。
「ふぁああああああ……」
私は、アホみたいな奇声を発することしかできなかった。
「ねえ、かな、この丘で、クリスマスイブの夜に流れ星を一緒に見た恋人たちは、幸せになれるんだって」
「本当?」
「うん!」
黒須と私は、手を繋いでずっと星空を見上げていた。それから、どれくらいの時間が過ぎただろうか? ひと組のカップルが「あっ!」と声を漏らした。その声につられるようにして、次々とカップルたちが声を繋げ、やがて、此処彼処で歓声が湧き上がった。
「かな、見て!」
尾っぽに箒をつけたみたいな流れ星が星々の光の中をかい潜るようにして走り抜けた。
「あっ! 黒須! あっちからも!」
流れ星はピカッと光ったかと思うと、ヒュンヒュンっと走り抜けていってしまう。黒須と私は、彼らの速さに置いていかれぬよう、必死で追い掛けた。
「星のシャワーを浴びてるみたいだね……」
「うん……」
「ねえ、かな……左手を出して」
黒須に言われるがままに左手を差し出すと、黒須は、サンタコスのポケットからキラリと光るものを取り出して、私の左手の薬指にはめた。
「えっ? これって? もしかして?」
「うん……その、もしかして、なんだけど……」
黒須は、私を抱き寄せて、
「俺と結婚してくれますか?」
と言った。黒須のつけ髭が私の耳に触れて、くすぐったくて笑いそうになるのを堪えながら、私は、
「はい!」
と答えた。黒須からプレゼントされたエンゲージリングは、あの光り輝く星たちよりも、さらに光輝いていた。
こうして、私は、サンタクロースの恋人から、妻となり、忌々しかったクリスマスは、私にとって、最高に嬉しい記念日となりましたとさ。
【おしまい】
恋人は、サンタ、苦労する 喜島 塔 @sadaharu1031
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