第3話「クリスマスパーティー」ー5

「おいっ! やめろよっ! いやがっているだろう?」


 聞き慣れた愛しい声が聴こえてきた。


 意表を突かれた綺一の腕の力が緩んだ隙を突いて、私は、するりと、綺一の両腕の間を潜り抜け、一目散に愛しい声のする方へと走って抱き着いた。


(あれ? いつもと感触違うけど……黒須だよね?)


 冷静を取り戻した私は、自分が抱きついた殿方の姿をまじまじと見て仰天した。


「えっ? ショッピングモールにいたサンタのおじさん?」


「自分の彼氏のことを忘れるなんて、ひどい彼女だよねえ」


 そう言って、黒須は赤のナイトキャップと、綿あめみたいなつけ髭を外した。


「えっ? えっ? 黒須? どういうことなの?」


 クリスマスイブの日の特別な仕事について、何度訊いても黒須は教えてくれなかった。


「説明は後! とりあえず、ここから逃げよう!」


 私たちの周りには、いつの間にか人集りができていた。すごい形相をした綺一がこちらをギロリと睨みつけている。黒須は、私の手をとって、一目散に逃げた。街中のイルミネーションが、流星群みたいに次々と光の軌跡を描いて、私たちの上から降り注いでいた。

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