第3話「クリスマスパーティー」ー4

 暖房が効き過ぎていたカラオケ店から外に出ると、空気中に充満した冷気が一気に私の体温を奪った。あまりの寒さに私は、思わず、ぶるっと身震いをした。慌てて店を出てきたのでコートの中は半袖ミニスカートのトナカイコスを着たままだった。


(どこかで着替えないとな)


 大通りに出ると、街はクリスマス一色だった。街路樹は、白や青にライトアップされ幻想的な世界を創り出していた。道行く人々は、皆、その美しさに魅了され、嘆声を漏らしていた。


黒須くろすと一緒に見たかったな……)


 そう思いながら、私は、シャッターを切った。黒須に送ってあげようとスマホをいじっていると、背後から声がした。


「かなちゃん……」


 振り返ると、そこには、綺一きいちが立っていた。目鼻立ちが整ったハーフのような小さな顔、10頭身は軽くあるであろう恵まれたスタイル。道行く女の子たちは、皆、彼を振り返ってポッと頬を赤らめていた。


「急に帰っちゃうからびっくりして追い掛けて来ちゃったよ。俺たちといるの楽しくなかった?」


「……いえ、そういうわけじゃないんです。ちょっと、急用が入ってしまったので……皆さん盛り上がっていたし、場を白けさせるのも申し訳なかったんで、こっそり出てきてしまいました……」


「急用って何なの?」


 嘘が下手な私の口から咀嚼されずに出てきた言葉は、自分でも呆れるほど、子供染みた言葉だった。


「サ……サンタクロースが来るんです!」


 私の言葉を聞いた綺一は、一瞬呆気にとられた表情をして、どっと笑った。


「かなちゃん、面白いこと言うねえ。俺、かなちゃんのこと気に入っちゃった。ねえ、どこかでお酒飲まない? 俺、かなちゃんのこと、知りたいよ」


「いえ……あの……本当に、私、急いでいるんです。ごめんなさい」


 そう言って立ち去ろうとした瞬間、綺一が後ろから抱きしめて耳元で囁いた。


「俺……女の子に、こんな冷たい対応されたことないんだよねえ。俺、めっちゃ傷付くじゃん? 絶対、かなちゃんを振り向かせてみせる! かなちゃんが、俺のこと好きになるまで、帰さないから……」


 綺一の力が強くて、腕を振り解くことができない。寒さと恐怖で小刻みに震えて、体にうまく力が入らない。


(助けて……お願い! 助けて! 私のサンタクロース!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る