終 そして三十年を迎えたいま

 Oセンセイが亡くなってから、もう早いもので十年が経つ。

 つまり、女子高生だった私が先生と出会ってから、三十年の月日が流れようとしている。


 あれから、私は再婚して。

 いろいろ挫けそうになりながらも、なんとか生きてきた。

 そして、「小説を書く」というかけがえのない人生の目標も見つけた。


 ここで私は、また、先生との巡り合いを不思議なものとして思い起こす。


 最初の結婚のときお祝いにもらった、分厚い封筒の中身。

 あれを下さったとき、先生は苦笑いしながら私に告げた。


「じつは、これ、こっそり、長いこと書き溜めていてなあ」


 そう、それは先生の自作の小説だったのだ。


 いまその封筒は、結婚、離婚、そして再婚という人生のバタバタのなかで、申し訳ないことに、目を通す機会も持てないまま、実家の自室の棚に仕舞い込んでしまっている。

 あえて読まなかった理由もある。

 その小説を読んでしまったら、本当にOセンセイとの日々が終わってしまうようで、怖かったのだ。


 けれど。

 今度帰省したら、読んでみようと思う。

 偶然とはいえ不思議な巡り合わせで、いま小説を書いている私からすれば、どこまでも人生の先輩であった先生に対し、やるべきことが残されているとすれば、それなのだ。


 そこからまた、Oセンセイと私の物語が、新たに紡がれていくのだろうから。


 拝啓 ニセ祖父。

 ニセ孫は、おかげさまで今日もまた、じたばた、楽しく、騒がしく、生きています。


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Oセンセイとわたしの二十年~大学助教授と女子高生が文通相手から「ニセ祖父ニセ孫」と呼び合うまで~ つるよしの @tsuru_yoshino

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