第8話 急転直下の住居移動

「そうか、一度マティスリア国へ行くのか」

「残念ね、せっかく良い働き手が来てくれたと思ったのに」


 ガルデーダス城の国王陛下夫妻、

 その前でペガサス四姉妹に並んで片膝着いて頭を下げているおいら、

 何も言わなくても全て話をつけてくれた長女ドミニクお姉様が陛下に応える。


「どうしても万年雪国の我が城は男手が必要でありますゆえ、無理を言って申し訳ありません」

「良い、テイク本人が喜んで行くと言うのであれば、致し方あるまい」

「娘のチルの遊び相手にしたかったのに残念だわ、雪国は厳しいけど、元気でね」


 結局僕はここで、主人公に会う事もなくさっさと旅立つ事になってしまった、

 理由はいくつかあるが、元々は例のハゲ僧侶の孤児院に潜り込むつもりだったのが、

 余計な事(今後のゲームのストーリー)をべらべら喋ったせいで悪い意味でマークされてしまった事。


(これに関しては本当に反省だ、今後、気を付けよう)


 それと、下手に主人公やその周辺と関わり過ぎて、

 今後の、ゲーム第一章・第一話の内容に悪い意味で影響を与えると、

 取り返しがつかなくなる、それをやるならせめて今の世界を把握し強くなってからだ。


(このゲーム、強ささえあればいくらでもゴリ押しできる)


 ついでに言えば『不敬』が怖い、

 下手に城へ取り入り過ぎて、主人公の妹チルと仲良くなったとしよう、

 本人の希望で身体を洗ってあげたのに、何もやましい気持ちは無いのに、


『我が姫になんて事を!』


 と、あっけなく処刑されENDもある、

 これが実はチルがとんでもない悪女で俺を罠にハメて、

 そんなストーリーだったらまあ悔いなしだが、そんなキャラじゃない。


(ゲームの通りならば)


 あとやはり一番大切なのは『機動力の確保』これに尽きる、

 僕がとりあえず最初に目指す例の『修行場』への道は遠い、

 でもこのペガサス四姉妹に乗っかれば、行けるチャンスが最初からある!


「……テイクちゃん、テイクちゃん?!」


 あっ、次女のはる……春が待ち遠しい声のレイラさんが僕を呼んでいる、

 僕が考えを巡らせている間に何か話を振られたのかな?


(よし、こういう時は!)


「ごめん、おいら、寝てた!」


 良かった、微妙だが笑いが起こった。


「まだ子供だから、仕方ないよね!」


 中性的な声でフォローを入れてくれる三女ミラールちゃん、

 彼女には思わず「わお!」って言いたい、なぜかは省略。


(つーてもこのテイク、十二歳にしては幼すぎるだろう……)


 山賊に育てられたって設定だからね、仕方ないね。

 そもそも中世ヨーロッパ部隊の児童教育って……っていけない、

 また脳内世界で考え込んじゃう、もう寝てたは通用しないぞ?


「テイクくんは、良い子、です、だってストルが、なついていたから」


 うん、今フォローしてくれたファルちゃんのペガサスの名前ね、

 記憶力はちゃんとしてるな、五十目前の幸一はそこそこ物忘れが出始めていたからなぁ。


「おいら、おうさま、おうひさま、ありがとう!!」


 ……本当ならば、


『国王陛下、王妃殿下、短い間でしたがありがとうございました、

 再び戻ってきた際にはおふたりの、そして王子や姫の命を助けられるよう、

 誠心誠意修行して参りますゆえ、何卒ぞれまでご健在で』


 とか言いたいのだが、このキャラでそれ言ったら中身は何だ?! ってなっちゃう。


(ええ、コミュニティFMで6年半DJやってた49歳のおっさんですが何か?)


 あーこれが生配信だったらみんな突っ込んでくれたのになぁ。


「それでは失礼致します」


 ドミニクお姉様の痕についていく姉妹、

 その一番後ろ、ファルちゃんと並んで出る僕、

 最後に一礼だけしておこう、これは転生者であっても大切な礼儀だ。


(たったこれだけで怪しまれたりしないよね……??)


 廊下に出た所でレイラさんが

 世話焼きお姉さんっぽい声で話し掛けてくる。


「テイクくん、本当に良いのね? ここよりもっと、ずっとずっと寒いのよ?」

「うん、おいら、さむいの、へーき、へーき!」


 いや実際は平気じゃないけど僕が考えた上での策だ、

 ここは中途半端に朝が寒い、昼もまあ寒い、そして暖が思う存分に取れない、

 でも極寒の山国へ行けば、確かに寒いは寒いが、寒さが死に直結するだけあって……


(室内は過度なくらい、暖かいはず!!)


 なによりあそこはペガサスの名産地だ、

 僕の修行場での計画が上手くいけばペガサスも必要になる、

 それと三年後の裏切り者についても探りと出来れば対策を打ちたい。


「それでテイク、まずは誰のペガサスに乗って行くか? 私はどうだ」

「あらドミニク姉さんは座席の面積取って可哀想よ、テイクちゃん、私はどうかしら?」

「レイラ姉さんだってお尻大きいよ! テイク少年、ミラールが良いって言いなよ」

「テイクくん、一緒に行こう? ね? ファルと一緒に、行こう?」


 ちょ、ちょっとなんでペガサス四姉妹でテイク争奪戦やってるんだよ!

 この会話って主人公相手に似たようなシーンがあった気がするぞ、

 台詞は微妙に違うけど、こういう修羅場シーンが確かにあったはず!!


(まさかテイクが主人公に、ってそんな訳ないよね)


 とりあえず回復役確保のため、

 僧侶である四女ファルちゃんを選んだのであった。


「テイクくん……嬉しい」


 いやいや、ロリコンじゃないからねーーー!!!

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