第4話 孤児院に行く予定がお城でした

「ほう、お前がテイクか」

「お、おお、おい、おいおいおい、おっ……」


 なんかプロレスラーが顔面ウォッシュしてるみたいな掛け声になってる俺、

 だって自分の事を自動的に『おいら』って変換しちゃうんだもん。


(国王陛下の前で『おいら』はまずいだろう……)


「アナタ、テイクくん怖がっているでしょう?」

「そうかすまない、騎士団共から話は聞いた、大変であったな」


 余計な事は言わずただ何度も頷く俺、

 いやいや孤児院に連れて行ってもらってハゲ僧侶にお世話になるはずが、

 どういう訳かゲームの出発始点、ガルデーダス城まで連れてこられてしまった。


(迂闊だった、色々と喋り過ぎてしまった)


 馬車の道中、知っているキャラクターに会えたものだからって、

 ついべらべらとゲーム内世界の確認をして喋っていたら『神童』にされてしまった。

 彼らの知らないような情報は全て『山賊の先輩や奪い取った書物』を情報源と言い張ったのだが。


(今になってわかる、外見は十二歳の山賊でも、中身は専門学校卒の四十九歳だ)


 ファンタジーの中世風異世界じゃ、

 日本の義務教育なめんなって感じになるのは当然だった。


「詳しい話をこの後、城の者が聞かせてもらうが、とりあえずは我が城で引き取ろう」

「お、おいら、うれしい!」

「ふふ、娘のチルも喜ぶわ」


 主人公の妹キャラきちゃったあああああ!!


(まだ誘拐されてないんだ、当たり前か、ゲームが始まる前だ)


 それ言ったら毒殺される王妃も、

 主人公たちを庇って死んだ国王陛下もいま、この目の前に居る。


「さささ、まずはお身体を綺麗にいたしましょう」


 老執事に連れて行かれるテイク、

 ついに、ついにこの世界に転移して、

 初めてのお風呂に入れてもらえるうううう!!!


(予定と違うけど、これはこれで、良し!)


 ……と思ったが、連れて行かれたのは馬小屋だった。


「こちらでございます」

「おいら、きれいになる!」


 うん、これ馬の水飲み桶だよな、

 十二歳のテイクには丁度ぴったりのお風呂だね!


(そりゃあこんな野良山賊、王室が使ってる普通のお風呂に入れてもらえるはずがない)


 とはいえお湯が用意されている、

 野営で水を火魔法により温めてるシーンとかゲーム内であったけれど、

 きっとそんな感じなんだろう、遠慮なく全裸で入ると頭からお湯を被せてもらう。


「おいら、きもちいい!」


 何度も何度もざばぁ~っとされていると、

 自然にお湯が桶に溜まって肩まで浸かる。


(やっぱり日本人は風呂だぜい!)


 うん、早く悪女ハーレムを作って、

 目で男を殺しそうな悪女の全身を綺麗に洗ってあげたい。


「ファル、何を覗いているのかね?」

「あっ、ご、ごめんなさいっ」


 僕を見守っていた老紳士が物陰から見てた少女に注意する、

 この声、この名前は遠いマティスリア国のペガサス騎兵隊四姉妹、

 その四女、声優が配信版では新しくなったあの空飛ぶ僧侶の!


「おいら、テイクっていうんだ!」

「わたし、は、ファル、その、訓練で、来ました」


 そういやゲーム内の回想で、

 マティスリア国とこの国は互いに兵士を遠征演習し合ってるんだった。


(その縁でこのファルがいる四姉妹も味方になるんだった)


 年齢はゲームじゃ十四だったから今は十一歳か、

 小学五年生と考えるとあんまり小僧の全裸を見せてはいけない。


「ファル、こんな所にいたのか」

「ドミニクお姉様!」

「すまない邪魔をした」


 あああ、イケイケお姉様のドミニクさまあああああ!!


(しかもCVは某錬金なんとかの金髪中尉!!)


「じゃまなんかじゃないよ!」


 大事な部分はお湯で隠れてるし!

 あ、行っちゃった。


「ささ、早く綺麗になりなさい」

「うん、ありがとう!」


(この老執事さん、小説版に出てきてたっけ?)


 ペガサス騎兵隊四姉妹の残り二人に早く会いたいと思いながら、

 さっさと全身のこびりついた垢を落としてさっぱりした僕は、

 綺麗で清潔な服を与えられてお城へと戻るのであった。


(さあ、入れられるのはどんな倉庫かな?)


 その考えが甘かった事を、俺は思い知らされるのであった。


「さあ、こちらへ」

「うん、おいら、入る!」


 地下牢である。


(なんでええええええええ?!)


 とはいえベッドは普通でシーツも綺麗な方、

 洞窟よりもはだいぶマシである、食事も多分、持ってきてもらえる。


「山賊であるからな、尋問や手続きが全て終わるまではこちらで我慢していただこう」

「おいら、何でもしゃべるよ!」

「ほうほう、ではや山賊について、この後、ウチの兵士に洗いざらい喋っていただきますぞ」


 ……これは心して喋らないといけない、

 まず俺は、いやこのテイクは山賊として生きてきた、

 という事は強盗殺人の一味である事には間違いない訳だ。


(立ち回りを失敗すると、十二歳とはいえ首を刎ねられる)


 あと盗賊のアジトを簡単に割らせて良いのかという問題、

 確かにあの一味は主人公一行にゲーム内で滅ぼされるのであるが、

 俺の中のテイクが『エバレイ姐さんだけは助けたい』と泣いている。


(テイクにそんな表現ができるかわからないけど、上手い具合にアジトの場所は、ぼかそう)


 さらに、あまりにもゲーム内情報をべらべら喋り過ぎると、

 悪い方向に怪しまれる可能性がある、ようは他国のスパイだとか。

 お城に連れてこられたのもその流れだろう、国王陛下夫妻に会わせたのも油断させるためかも。


 ザッ、ザッ、ザッ


(おお、ゲーム内で階段から人が出てくる効果音だ!)


 降りてきたのはゲーム内で見たベテラン戦士だった!


「おうお前か、やたら国家間の戦況に詳しいとかいうガキは」

「おいら、テイクっていうんだ!」

「拙者はゼッカ、重戦士だ、色々と話を聞かせてもらおう」


(めっちゃ渋い声、うん、このダンディな声は別次元、「新しい次元」の声だ!!)


 いやはやこのゲーム、やはり予算がダンチである。

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