第12話 そして雪国で幸せに暮らしましたとさ、ってENDは嫌です

「テイクと言うらしいな、山賊にされていたと聞いた、大変だったな」

「もう安心よ、今日からはこのマティスリアが、貴方の国になるのよ?」


 またもやいきなり国王夫妻と面会、

 いかにも昔のゲーム的シナリオといえど、

 イージーモード過ぎるだろう、こういうのはイージーカムイージーゴーに繋がる。


(日本語で『悪銭身に付かず』って意味だよ!)


 

「おいらテイク、山賊さ! でももう飽き飽きしてたんだ……グスン」


 もういっそ斧でも振り回して


『お前らの夫婦げんかでこの国は一旦滅ぶんだがなヒャッハー!』


 って飛び掛かって、

 あっさり返り討ちで死んだら元の世界へ戻れないかしら?

 などと思いつつ次の言葉が出せない僕を、ドミニクお姉様が助ける。


「陛下、お言葉をお許し下さい」

「うむ、話せ」

「テイクはまだ十二歳のうえ、まともな環境で育ってはおりません、

 せいぜい六歳児から八歳児程度だと認識下さい」


 実際は四十九歳児だけどね!


「ううむわかった、だがあえて言おう、テイクよ、

 この国は男手が足りぬ、雪国ゆえ永遠に足りぬ、

 よってここマティスリアで生涯、力になってくれ、良いな?」


 そんなことしたら悪女に会えなくなっちゃう!

 とはいえ三年後、この国が内乱に陥れば逃げられるんだろうけども……


(本音を言えば、さっさと悪落ちする王子を斧で粉砕したい)


 そのあたりの計画ってもう動き出してるんだっけ?

 三年前ならぎりぎりまだ、という線も無い事は無い、

 でも僕がここでゆっくりラックリしてそれを防ぐほど気長じゃない。


「テイクよどうした」


 あっ、黙っちゃってた、

 陛下の逆鱗に触れて不敬はまずい。


「おいら、むずかしいこと、わかんない!」


 アホのフリして逃げよう。


「これかわかっていけば良い」

「そうね、身体で覚えれば自然に身に付くわ」


 あー、もう肉体労働要員にロックオンだ。


「……ごめんなさい」


 とりあえず謝って置けばなんとかなる、

 うん、小学生低学年の発想だ、だがそれにすがろう。


「大丈夫よ、ドミニクが教えてくれるわ、ねえ?」

「はっ、彼は我がペガサス四姉妹専属の雑用係として引き取ります」


 小間使いきたああああああ!!!

 いや、召使いになるなら相手は悪女がいいよう。


(でも機動力確保のためだ、むしろ喜ぼう)


 正直、ダラダラとこの世界で無駄に時間を過ごしたくない、

 ゲームのストーリーを山賊テイクひとりでひっくり返そうとするなら、

 明日からでもあの修行場でレベル上げ、ポイント獲得に勤しみたい所だ。


「ではドミニクたちに案内して貰うと良い」

「がんばってね」「うん、おいら、がんばっちゃう!」


 思わず『ハッスル、ハッスル!!』とか言いそうになった。


(そして四姉妹と一緒に礼して出て行く、っと)


 なぜか囲まれるようにしてお城の廊下を歩く、

 ゲームじゃそんな描写あったっけって話だけど、

 標高のせいか空気が薄い、うん、冷たい、そして寒い。


(誰だ雪国だから逆に室内は暖かいとか想像してた奴は!)


 そう、僕だ。


「テイク、お城に繋がったこちらの塔が私たちの職場兼住居だ」

「ペガサスの小屋もあるから、早く慣れて世話をお願いね」

「困ったことがあったら何でも言って欲しい、力になろう」

「でも、そ、その、そのかわり……うそは、つかないでよ、ね」


(うう、ファルちゃんとは指切りげんまんは、できないなぁ)


 連れて行かれた部屋はまあ、まあまあまあギリ許せる狭さ、

 まあ今の俺が十二歳の身体だから何とか我慢できるだろう、

 なにより暖房魔石が一応ついている、寝床にしか効いてないっぽいけど。


(せめてネット環境があれば……)


「さあテイク、色々とお話をしよう」

「うっ、おいら、おはなし、うまく、ない」

「一番話しやすい相手を選んでくれ、この部屋で誰にも邪魔されずに、ふたりっきりで話そう」


 あー、これ完全に尋問だわあ、

 狭い部屋に閉じ込めて正直に話すまで出さないぞみたいな、

 食事が欲しければ、眠りたければほれ吐け吐けみたいな、昭和の刑事ドラマかよ!


(タカ&ユージは居ないぞ!)


「さあ選んでくれ、誰だと話しやすい?」

「テイクちゃん、お姉ちゃんと話しましょう?」

「何も怖い事は無いからさ、少年」

「その、できるだけ、秘密にするから……」


(できるだけ、ねえ)


 正直、今の俺に出来る手段はこの四姉妹のペガサスを借りる事だけだ、

 もちろん操縦士も必要だが、ここまでは上手くやってこれた、という事にしておこう、

 ならば、もっともっと親密になって……親愛度はAで止めるけどね!


(悪女フェチとしてはドミニクお姉様かミラール姉さんの二択なんだけど、ここは……!!)


「おいら、おいら……ファルちゃんがいいー!」


 うん、ロリコン再び、である。


(いやだから違うって!)


 配信なら総ツッコミが入っているな、これ。


「よし、ではファル、頼んだ」

「はい、お姉ちゃ……お姉様」


 こうして扉は閉められ、

 くっそ狭い部屋に空飛ぶ僧侶ファルちゃんと密室ふたりっきりだ、

 いや絶対これ扉の前で誰か聞き耳立ててるだろう!


(まあいいや、ここは悪い大人のトークで子供を騙して乗り切ろう)


 失敗してここで一生を終えるENDだけは勘弁だからなっ!


「……テイクくん?」

「その、お、おいら、ファルちゃん、おいら、おいら……」


 さあ、どの展開に持って行こう。


『アンケートを取りまーす!』


 って配信だったらやれるのになぁ……

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