第2話 シンボリックウォーワールズとは

 男臭い洞窟の奥、

 焚き火の前でボロ服を、身体を乾かす。


(この煙、換気とかどうなっているんだろう、ゲームだからいいのか)


 そういう事を言ったら『何十年も人が入っていない遺跡』とか、

 『たったいま誕生した洞窟』にだって等間隔で松明があったりするゲームだからな。


(そう、ここはゲームだ……)


「おーうテイク、ずぶ濡れじゃねーか」

「あっ、ご、ごめんよ」

「謝る事はねえよ、もうちょっと大きくなったら頼みたい事もあるからよお」


 名前も知らないモブ山賊、

 主人公がここを通り抜けようとするとき戦うキャラだろう、

 いや頭の中にぼんやり名前が浮かぶのはこの子の、この世界での記憶か。


(落ち着いて、このゲームについて思い出そう、そうしないと段々薄れて行く気がする……)


「シンボリックウォーワールズ、とはっ!」


 前世でやっていた動画配信の喋り風に言ってみた、

 これで俺をこの世界に引きずり込んだ『何者か』が、


 『いっけねーコイツ、ゲームの中身全部知ってるのに放り込んじゃった戻そう!』


 ってなって現実世界というか元の世界へ戻してくれやしないかと思ったが、

 しばらく待っても何も無い、焚き火が暖かいだけ……うん、火を見つめながら思い出そう。


(第一弾は俺が高校生の頃だったなぁ)


 ファンタジーの世界を舞台にしたテレビゲームの金字塔、

 いまだに、って言っても今っていつだって話だけれども、

 俺がここへ飛ばされた年まで新作が出続けている大人気戦略シミュレーションゲームだ。


「以後、SLGと呼ぶ!!」


 なんだいまの『ここをキャンプ地とする』みたいなノリは!

 ……強い意志で言えば前世の口調が出せるようだ、声はアレだが、完全な子供。


(本当は厳密にはシミュレーションロールプレイングゲーム、SRPGなんだけれどね)


 第一弾の、最初のゲームストーリーを説明すると

 人間世界、ラルカティア大陸にあるガルデーダス城の王子になった主人公エリオが、

 敵襲から王子と姫だけでも逃げてくれ、と別々に脱出するのが始まりなんだよな。


(ワールドじゃなくワールズは、世界が二つあるんだよな)


 大陸がいくつもあって亜人の国もあるんだけれど、

 終盤には魔界へ、魔物の国へ戦いの場を移すんだった。

 そして続編ではもっと様々な世界が出てくるんだけれど……


(凄いのは全十四作品、全て同じ世界で繋がっているんだよな)


 年代が変わったり、異空間に作られた幻術師の世界に行ったり、

 よくネタが尽きないっていうくらいなんだけど、うんよく出来たゲームだ。


(と、いう事は、初代の世界でも、続編で出てくる街とか行けるのかな?)


 実は初期の、いま僕が居る初代の世界も四回くらいリメイクされている、

 携帯ゲームや3Dゲーム、オンライン配信ゲーム……そこで初めて声がついたキャラも居る。


「じゃ、じゃあおいらの声は確かあの女性声優……」


(うん、声に出すとそんな感じがする)


 最初に声がついたときの声優な気がする、

 あの恋愛シミュレーションゲームの声優さん……

 そこまで売れている人じゃないからはっきり名前は思い出せないや。


(でも四大悪女の声優は、ばっちり覚えているぞー!)


 そう、このゲームの初代には、

 さんざんネタにされる『四大悪女』というのが出てくる、

 決して、絶対に味方にならない憎らしい悪女……


(リメイク版で俺の心を捕らえて放さなかった、あの四大悪女だ)


 とはいえネット掲示板やゲーム配信で四大悪女の事を話すと、


『はぁ? 悪女といえばエバレイだろう』

『エバレイ忘れんなよ、すぐ死ぬけど』

『ある意味、悪女の頂点は不遇のエバレイ姐さんだ」

 

 とネタにされていたのが俺の転生したテイクの母親代わり、

 盗賊の親分を心から愛する奥さんのエバレイなのだが……


(俺の心の中のテイクが、すっげえエバレイへの愛情に溢れている)


 もちろんそれは母親に対するアレである、

 一方、父親代わりとは想いたくない軽い憎しみが湧くのが親分のカソンだ。


「あんなにあっけなく見捨てられるなんて……エバレイ姐さん、可愛そう」

「うっせ、さっきからおかしな事を呟いてるんじゃねえ!」

「ご、ごめんよう、おいら崖から落ちちゃってぇ」


 うん、俺はここに居ちゃいけない、

 ゲームのストーリーはわかっているし、

 攻略法、育成方法もばっちり頭に入っている、今は。


(よし、ゲームのストーリーが動き出す前に、強くなって逃げ出そう)


 もしゲームの中のバグが使えるなら、

 攻略方法通りに強くなれるのであれば、

 この年齢でも強くなれるはず、そして世界を平和にすれば……


(四大悪女で、ハーレムを築けるかもしれない!!)


 俺は心に誓った、

 この世界に転生した以上、

 あの俺が大大大好きな『四大悪女』を味方にして、

 いや、お嫁さんにして、この世界を快適に過ごすんだ!


(……で、俺って誰だっけ? 前世の名前とか……忘れないうちにメモしたいな、あと攻略法も)


 ぐぅ~~~


「お腹鳴ったぁ、おいら、メシ、足りなかったよぉ」

「うっせえ、外で取ってこいっ!!」

「……ごめん、おいら寝るよ」


 外はまだ嵐、

 この世界での生活はまだ始まったばかりだった。


(……早く四大悪女に、抱かれながら眠りたいよぉ……)


 頭の中で再生される四大悪女の声、

 それは全て、一流女性声優の皆さんの声なのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る