第1話 雨の中の転生

 ザーーーーー、

 ザザーーーーーーーー……


(ううう、寒い、痛い、ここは……どこだ?!)


 全身の痛み、凄まじい寒さ、激しい水音とその粒が俺の身体を打ち付けている。


(シャワー、か?)


 風呂場で汗を流している間に倒れたのだろうか、

 それにしては外気を感じる、土や草や苔の匂いも……


(うぅ、これ上から落ちたな)


 記憶が曖昧だが車が崖から落ちて投げ出されたのだろうか?

 ゲーム実況をクリアした瞬間までは覚えているけど、と、とにかく身体の様子をみないと……


「う、うっ……ううっ?!」


 なんだか声が変だ、こんなに高かったっけ?

 あと全身の痛みも少しおかしい、なんていうか、

 痛む箇所からいって身体が縮んでいる感じがする。


(そんな馬鹿な!)


 目を開ける、やはり雨だ、薄暗い、嵐の夜か?

 いや風はそれ程でもない、大雨でここはやはり崖の下のようだ。


「いててててて……」


 やっぱり変な声、ぶっ続け実況のせいで喉がおかしくなったか?

 ていうかいつ終わったんだっけ、そしてなぜ出かけたのだろう?

 終わった後の事が思い出せ……ってあれ? な、なんだこれは??


「おいらの手が、小さくなってる」


 いや待て、おいらってなんだよ!

 自分のこと『おいら』なんていう奴は、

 幼い頃にテレビアニメで見た某妖怪人間くらいだぞ?!


(服も変だ、小汚いっていうか、服も小さい、いやこれ、身体が小さい?!?!)


 ようやく自分がどのような状況かを確認しはじめる、

 まず、この身体は明らかに子供だ、そしてここは森の崖下、

 状況から見て上から滑り落ちたのだろう、背中には大きい籠を背負っている。


(あー、この籠がクッションになって助かったっぽい)


 全身の痛みをこらえながら籠を確認する、

 中はそこそこの量が入ったキノコ、それを見た瞬間に記憶が頭に浮かぶ。


「そうだ、おいら兄貴たちに言われて、キノコ採りにきたんだ!」


 雷の鳴る大雨の日に採れたキノコは美味い、

 そう山賊の兄貴たちに言われて半ば無理矢理採りに出され……


(って、俺って山賊?!)


 ふと腰に着けていた袋に硬い瓶を感じ取り出す、

 それは飲み薬、これを見たとたん、また別の、もっと違う記憶が蘇る!


(これは、ゲームアイテムだ!!)


 そう、まさについさっきまで生配信で実況していた、

 超人気戦略SLG「シンボリックウォーワールズ」全14作品に登場する、

 体力を回復させるための初期アイテム、その名も『くすりびん』まんまだ。


「おいら、おいらっていったい……?!」


 とにかく薬を飲む、

 すると即座に体の痛みは消え、全身に力がみなぎる。


(擦り傷とかも治ってる、おそらく捻挫も)


 でも寒いものは寒い、

 自分の姿を早く確認したいがこの雨だと水面での確認も無理だ、

 俺はこぼれ落ちたキノコを慌てて拾い集め、崖の上へ戻るルートを探す。


(うーん、夢だよなこれ、どう考えても)


 しかし寒さといい匂いといいリアルすぎる、

 俺は混乱のまま何とか遠回りで崖の上まで戻ると、

 どういう訳か自然と足が獣道を進む、そう、そっちに帰る場所があるかのように。


(頭痛が無くなって段々と記憶が……うん、俺の名は『どんコロ』、ゲーム配信者だ)


 口に出して言ってみよう。


「おいらの名はテイク、山賊さ! でも最近、飽き飽きしてきたんだ、

 役に立つから連れて行ってよ! これ、『くすりびん』逃げ出すときチョロまかしてきたんだ!」


 ……驚いた、口に出た言葉は俺がついさっきまで実況していたはずのゲーム、

 超人気戦略SLG『シンボリックウォーワールズ』シリーズ全14作品のうち、

 第1作の一番最初に仲間となる十五歳の山賊テイクのセリフ、そのままだったからだ!!


(え、ひょっとして俺、そのテイクになっている……??)


 それなら武器にハンドアックスを持っていないとおかしい、

 そう思って持ち物を探るがそんなものは無い、袋はさっき呑んだ空の『くすりびん』だけ。

 背中の籠もキノコしか入っていない……寒い、雨が冷たい、とにかく帰ろう!


(そうだそうだ、山賊のアジトに帰らなきゃ、そこには……あのキャラクターが待っているはずだ)


 急ぎながら俺は思った。


(ひょっとしたらこれって……転生、っていうやつか?!)


 雷鳴轟く中、自然と行きついた先に洞窟はあった、

 入ってすぐの場所に灯されていた松明、

 その奥には、いかつい男が立っている。


「おうテイク、遅かったな、どうだった」

「おいら、がんばったよ!」

「……言う割には大して取れてねえな、仕方ないか、さっさと親方へ届けてこい!」


 中はむさくるしい男の匂い、

 ゲーム内じゃ感じ取れないが、汗臭さがキツい、

 それもそのはず、十数人のむさい男があちこちで溜まっているからだ。


(うっわあ、普通に虫も這ってるし、衛生環境最悪だぁ)


 そして奥の立てかけたような木製扉をコンコンと叩く。


「テイクだよ! キノコとってきたよ!」

「おう入れ」


 中に居たのは無駄にかっこいい顔の山賊リーダー、

 そうそう、ゲームでも『え、これ山賊?!』って思ったイケメンだ、

 丁寧に武器の手入れをしている、普通の斧、ゲーム表記だと『アックス』だ。


「カソンの親分! 崖から落ちて『くすりびん』使っちまった!」

「馬鹿野郎! もったいねえことすんな! お前のキノコは無しだからな」

「そんなぁ」


 ボロボロの靴片方を投げつけられた!

 そうそう、こういうDVキャラクターだった、そしていつもの被害者は……


「エバレイに持って行け! あと空のくすりびんも渡しておけよ!」

「わかったよ!」


 そう、ここの山賊のリーダー、親分のカソンには妻が居る、

 奥さんの名前はエバレイ、ゲームだといかにもアネゴ肌といった感じのビジュアルだった。


(居場所がなんとなくわかる、今は洗濯か料理の仕込み……こっちだ)


 壁から水が流れる洞窟内の洗い場、

 そこでひとりの、この山賊唯一の女性が居た。


「おやテイク、無事に戻ってきたのかい?」

「うん、おいら、キノコ採ってきた!」

「偉いね立派だね、良い子だね、怪我なかったかい?」


 あ、意外とやさしい。


「くすりびん飲んじゃった!」

「……仕方ないねえ、後で新しいのあげるよ」

「ありがとう! オイラ、姐さんだいすき!」


 あ、ちょっと照れてる!


「そんなこといいから顔を洗いな」

「うん!」


 ここでようやく水面で自分の顔、姿形を確認する。


(ええっと、テイクって確か設定、十五歳だったよな? それにしては若くないか?!)


 顔を洗ってからキノコを洗うエバレイに尋ねる。


「姐さん、おいら、とし、いくつ?!」

「もう十二だろう? 年齢くらいちゃんと覚えな」

「わかったー!」


 やっぱり若くなってる!!

 つまりゲーム開始より三年前かぁ。


(と、いう事は……歴史を変えられる!!)


 ぐうぅぅ~~~……


「おいら、おなかすいたぁ……」

「仕方ないねえ、そこの干し肉と茹で芋、少し喰いな」

「ありがとー!」


 この姐さん、三年後、死んじゃうんだよなぁ……。


(場合によってはテイクの斧で、すなわち、俺の手で……)


 とりあえず今の状況、俺の前世?

 そしてゲームの設定を思い出して整理する事にしよう。

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