第5話 早くハーレムを手にするために

「よしわかった、お前さんの話はよーくわかった」

「おいら、兄さん達に聞いた話から、予想したんだ! 三年後が、やばいよ!」

「とにかくこれなら牢から出してやれる、安心しろ、今夜はまあ、山賊だからな」


 渋いイケボを残して階段を上がるゼッカさん。


 ザッ、ザッ、ザッ


(出て行くとこもその音かよ!)


 ゲーム設定で余計な効果音を消せないかと目の前の空間を押してみる。


(無理かぁ)


 よし、ここは……


「ステータス、オープン!」


 ……何も出ない。


「むりかぁ」


 簡易的なベッドというか、

 山賊のアジトからひとつかふたつグレードアップした寝床に身を委ね、

 仰向けで目を瞑る。


『名前:テイク クラス:山賊 レベル:1

 武器:未所持 年齢:12 性別:男』


(出たあああああああああああああ!!!)


 暗い瞼の裏に浮かんできたステータス、

 さらに意識の中でステータスをスライドすると……


『可能武器:アックス系 経験値:0

 所持品:くすりびん 所持金:0

 友好キャラ:ファル(F)

      :ドミニク(F)』


(ゆ、友好キャラが、早くも登録されちゃってるう!!)


 実はこのゲーム、最初期は無かったのだが、

 シリーズ四作目からキャラクター同士が自由にくっつけあえる。


(とはいえ、対象は全キャラじゃないんだよなあ)


 たとえば主人公の王子エリオには最新版だと女性キャラ12人との結末が良いされている、

 実は主人公と妹のチルは血が繋がっておらず結ばれる結末は物議をかもした。


(その割には、主人公が実は国王の亡き兄と、

 堕天使との間の子で引き取って王子になったとかいう物語はすんなり受け入れられていたんだよな)


 ここまでくると行き過ぎてもう受け入れるしかない設定というか。


(でもおかしいな、テイクは友好キャラにできるの、全然別の2キャラだけだぞ)


 そう、主人公クラス、メインヒロインクラスの相手は12人居るが、

 普通の主要キャラは8人から6人、脇役で4人か3人、そして最底辺、

 僕や当初行く予定だった孤児院のハゲジジイ僧侶みたいなモブに至っては2人だ。


(そしてテイクの相手というと……)


 随分後で出てくる盗賊少女のメテナと、

 迫害されて逃げてきたダークエルフの少女ラプスだ。

 もし、この世界がどうしてもゲームの物語通りに動くなら、僕の相手は……


(このふたり、決して嫌いではないけれど、テイクとしては良いだろうが、俺は……)


 この俺、まず生配信者『どんコロ』としては、メインヒロインを狙うかもしれない、

 サムネの動画だと『えっ、最弱キャラテイクがあのメインヒロインを射止める?!』とか作るだろう。

 でも本当の俺、生身の俺、この『土間幸一』の願いといては……


 『四大悪女でハーレムを築きたい!!』


 どうせ転生したこの世界、

 夢や幻の部類だろう、もしくはゲームに取り込まれた電子の世界か、

 だったら俺の性癖にぶっ刺さる、主人公たちを、重要キャラを鬼畜に殺しまくる、

 あの四大悪女たちをなんとか『俺の』味方につけ、俺を愛させたい!!


(そして、最終的には悪女たちにボロボロにされて、狂い死にしたい!!)


 ……自分でもドM性癖が酷くで引く、

 うん、実況でもそんなこと言っては視聴者に


『また病気か』

『そういうお店行ってるの?』

『悪女なら挿入する前に刺されるだろう』


 とかコメント貰ってたなぁ。


(いいよ、どうせこんな異世界、ゲーム内だ、いつでも永遠のゲームオーバーになってやる)


 でもさすがに悪女と会う前に死ぬのはもったいない、

 という事で四大悪女に会うためにする事、それは……


・自分が徹底的に強くなること

・長距離移動のコネを持つこと

・ゲーム内の攻略法、ストーリーを忘れないように書き記しておくこと


 とにかく物語が本格的に動き出す三年後、

 それまでに悪いフラグを徹底的に潰す必要がある、

 よし、ここからテイクの、悪女ハーレムへの進撃が、始まる!


(……って、これセーブして元の世界へ一旦戻るとか、できないのかなぁ?)


「……セーブ!」


 目をつぶると……

 瞼の裏には何も映りませんでしたー、とほほ。


 ザッ ザッ ザッ


「飯だ、たんまり用意した、いっぱい喰え」

「うん、おいら、はらいっぱいに、なる!」


 山賊王にはなりたくないけど!

 それにしても沢山の芋だ、ほっかほか。


「いただきます!」


 両手で持ってまさに山賊食いだ、

 あむあむしながら俺は俺である事を思い出す。


(ネット実況配信者『どんコロ』そして元DJ崩れの人間『土間幸一』それが俺だ)


 なんだか定期的に思い出さないと、

 俺が俺でなくなって俺が本当にテイクというキャラに乗っ取られる気がする、

 異世界転生、ゲーム内転生ならCVが般若なあの女性とかの女神が出てきて、

 

『貴方をこの世界に召喚致しました、なぜならば……』


 と、わかりやすく説明してくれても良いものなのに、

 そういうのが一切なくいきなりゲーム世界のしかも過去に放り込まれた。


「……問い合わせサポート、オープン!」


 そう叫んで目を閉じても、何も無い。


「さっきからうっせーぞガキが!」

「ご、ごめんよ~~!!」


 他の牢からかそれとも衛兵か、

 ドスの効いた声で起こられたのでさっさと飯を食って横になろう。


(あの場所がこの世界でも無事にあるといいんだけどなぁ、あの修行場……)

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