第9話 上手く騙くらかして修行場へ

「お、おいら、こわいいいいい」

「だいじょうぶ、しっかり、つかまってて」


 ペガサス四姉妹の末娘、

 ファルちゃんが励ましてくれている、テイクより年下なのに!


(そうだ思い出した、俺は前世、高所恐怖症だったんだー!)


 しかも重度の……どのくらい酷いかというと、

 まわりに建物とかない草原とかで空を見上げるだろ?

 すると上下というか天地が逆さまになった感覚がして、空に落ちそうになって恐怖を感じる!


(わかるかなぁ、空に『吸い込まれる』じゃなく空に『落ちる』っていう恐怖感!)


 実況でこういう事を言うとみんなが反応に困るような時でも、

 常連の『草ばやし』さんとか『聞き耳専門』さんなら反応してくれるのだが、

 いかんせんここはゲーム内の異世界転生だからなー、文字とか流れないのが辛い。


「おいテイクしっかりしてくれ、山賊のアジトがわかるのは君だけだ」

「ううううう、お、おいら、がんばるうううう」


 せっかくドミニクお姉様が励ましてくれているんだ!

 あっ、ハゲといえば……あそこだあそこ、みんな大好きハゲ僧侶の孤児院!

 これはいくら高所恐怖症でも叫ばずにはいられない、さあ皆さんご一緒にっ!!


「はーげ! はーげ! はーげ! はーげ! はーげ!」


 おっといけない、声に出してしまったーー!!


「テイクちゃん大丈夫? お姉さんのペガサスに乗って低空飛行する?」


 いっけね、次女のレイラさんに気を使わせちゃった。


「おいら、おちついてきた!」

「きっと怖さを吹き飛ばす呪文なんだよね」

「うんっ!」


 さすが困った時のミラールちゃん、

 ゲームのストーリーでもツッコミ役は彼女だ。


(あぁ、ハゲ宮殿が遠ざかっていくぅ……)


 僕の今後の進め方次第ではもう二度と会わない事もありうる、

 だからといって『ペガサスに酔ったのであそこでお水を』はあまりにも早すぎる、

 それに今更あの孤児院で育て直しされるのはもったいないというか。


(正直に言おう、『ハゲ僧侶<<<<<<ペガサス四姉妹』であると!!)


 今後しばらくやっかいになるとしても、

 五十代ハゲジジイより十代二十代のお姉様に添い寝される方が元気になる!!


「テイクくん、聞いていた話だと、山賊ってこのあたり……」

「もっと、もっともっと、もっと向こう!」


 俺が指差すのはもちろん山賊のアジトでは無い、

 そう、土間幸一ではないテイクが必死に育ての母を助けてくれと叫んでいる、

 ゲーム開始三年前とはいえ、もしレベル1基準であろうと、このペガサス四姉妹と闘わせたくは無い!


「……あの方向は忌み地の近くだぞ、そうか、だからか」


 あああ相変わらず素敵なお姉様声のドミニク様っ!

 でもいけない、僕が抱かれたいのは四大悪女の皆さんだ、

 本当の本当に詰んで困った時の保険としてこの四姉妹はキープしていこう。


(えっ、何様だって? ゲームプレイヤー様さっ!)


「ねえテイクちゃん、目印とかないの?」

「ある! 古代遺跡の、入口の横、右だよっ!」

「えっ、そんなものあったっけ?」


 三女ミラールちゃんが知らないのも無理は無い、

 確かゲームの後半で存在が匂わされる場所だからだ。


(入れるようになるのはかなり後だから、遺跡自体は知られるのは構わない、でも……)


 その手前にある修行場、あそこの存在をどう四姉妹に伝えるかだ。


「あっち、あっち、あっちのあっち!」


 うん、方向は間違いないはず、

 何十回も擦ったゲームだ、間違えるはずが無い、

 ただし四姉妹の思っている方向では無いというだけのこと。


(さあ、あの修行場がどれだけ再現されているかだけれども……)


「テイク、ひとつ確認して良いか」「うんっ!」


 ドミニク様がすぐ近くまでペガサスを並べて飛ぶ、

 やはり風になびく髪が綺麗、そして美しい……これが悪女だったら!!


「本当に、山賊を退治して構わないのだな?!」


 ぎくり


(これが配信だったら『ばれた』『ばれてる』『やべえ』とか文字が流れているな)


「おいら、ちゃんと、アジトに案内する!」

「そうか、なら良い」


 うん、俺の修行するためのアジトだけどね!!


「テイクちゃんは隠れていていいのよ?」

「おいら、隠れるの、とくい!」


 ペガサスが加速していく、

 この速度なら俺の目的地はしばらくすれば着くだろう、

 もし中に入れたとして、どう言い訳するか。


(自分だけこっそり入って、は無理だな)


「……テイクくん、寒くない?」

「おいら、へーきへーき、寒さは!」


 絶えず心配してペガサスの姿勢を気にしてくれているファルちゃん、

 他の姉三人もしっかり様子を見つつ飛んでいてくれて、

 もしテイクが落ちてもすぐに拾い上げてくれそうな気がする。


(この四姉妹を騙すのは、心が痛むな)


 かといって修行場を見つけたとしてだ、

 施設が最新版の配信ゲームと同じになっていたとしたら、

 それはもう、どえらい事になる、もしそうなったら……


『おいら、いえ私は、実は、異世界人なのです!!』


 駄目だ、それって俺が一番嫌うパティーンのラノベだ、

 これは単純に個人的趣味なのだが、異世界転生した主人公が、

 転生先で正体を、異世界人である事を明かす展開が大嫌いだ。


(だってほら、異世界転生って自分だけの特別な世界にしたいじゃん)


 同じ理由で『転生先に同じ転生人が居る』というパティーンも嫌いだったりする。

 これが配信なら『わかるわ』『わからないわ』『いいから話を進めろ』とか文字が流れていそうな。

 とまあ『これが実況だったら』というのを絶えず考えながらペガサスが飛び続けると……


「さあ、間もなく忌み地だ、どのあたりだ?」

「あっち、あっちあっち、あどこあそこ、あそこだよー!」


 いまだに背筋を凍らせながら、

 高さにびびりながら指差すあたり、

 うん、間違いない、最終決戦の地へ繋がる遺跡が発見される場所、その手前だ。


「あそこで降りれば良いのだな?」「うんっ!」


 さあいよいよ、運命の修行場に到着だ!!

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