第3話 さようなら山賊のアジト

 ようやく嵐が治まった朝、

 俺はすでに、この洞窟から脱出する決意を決めていた。


「じゃあ姐さん、おいら、必ず帰ってくるよっ!」

「なんだい大袈裟に、行っておいで、立派な山賊になるんだよ」

「うんっ、強くなってくるよっっ!!」


(だってあまりにも環境がアレだし)


 自分の生配信ルームもそれ程こまめに掃除していた訳ではないが、

 やはりこの世界は文明が違う、いやそれ以前にどっちの世界でも洞窟では住みたくない。

 ゲームの世界では省略されていたけど、やはりマトモな空調に、トイレと食事が恋しい。


(さよなら……エバレイ姐さん、必ず、助け出すから)


 洞窟から出た所で親分であるカソンが配下の山賊を並べていた。


「テイク遅いぞ! 子供だからって許されると思うな!」

「ごっ、ごめんよ~!!」


 この口調も早く直したい。


「よしお前ら、嵐で近くの山道を通り抜ける馬車は時間がかかる、

 金目の物を多く積んでいそうな馬車を狙うんだ、ただし、

 王国の騎士や強そうな冒険者、大して荷物の無さそうな馬車は見逃せ、いいな!」


「「「「「うっす!!!」」」」」


 そう、山賊とは何か?

 積み荷を奪う強盗なのだよ!

 しかも殺人もお構いなし、現にこのキャラ、テイクの両親も……


(そう考えたらこの盗賊団自体、親の仇だ)


 だからゲーム内で主人公のパーティーに加わり、

 このモブ山賊を殺しまくるのはまあ、正しいといえば正しい、でも……


(思い出しちゃうな、あのシーン)


 主人公の一団がお城から抜け出して隣国に助けを求めるため、

 通り抜けようとした裏道で山賊に襲われる、その一団が俺、このテイクが居る一団だ、

 そして抜け出したがっていたテイクは主人公エリオか親友の騎士団員ジャテス、

 もしくは姫のティラル、この三人のうち誰かが話し掛けられると……


(「おいらの名はテイク、山賊さ! でも最近、飽き飽きしてきたんだ、

 役に立つから連れて行ってよ! これ、『くすりびん』逃げ出すときチョロまかしてきたんだ!」)


 と言って仲間になるんだ、でも最初の人数合わせみたいなキャラで、

 戦士職系としてそれなりの駒ではあるもののすぐに強いキャラが次々と味方になり、

 山を抜け出した先で仲間になる孤児院教会のハゲ(詳細はのちほど)共々、

 早々にお払い箱、予備役としてろくに育てられないままテントで待機させられ続けるんだった。


(ゲーム内のテントで、どういう気持ちでいたんだろうな)


 だから逆に生配信実況では縛りプレイ的に、

 山賊テイクと僧侶の例のハゲという無能コンビを全戦使うという

 マゾいプレイも視聴者に受けたりする、難易度は上がるけれども。


(ちなみにエンディング後のテイクはというと……)


「おいテイク、ぼーっとするな! 先遣隊として道の先を見てこっ!」

「わ、わかったよカソン親分! おいら、金持ちそうな馬車が来たら知らせるよっ!」

「金持ちそうでなくても、どんな馬車か必ず報せるんだぞっ!」


 こうしてゲームの物語より三年も早いであろう今、

 ゲーム本編で序章の次、第一章の舞台であるサブタイトル『脱出』のマップへ来た。


「おいテイク、どこまで行くんだ!」

「おいらひとり、一番先で見張るから、みんなはゆっくりしていってね!」


 脳裏に女の生首ふたつが浮かんだのは実況者のサガだ。


(さあ、ちゃんとした馬車が来たら、ハゲ僧侶の孤児院まで連れて行ってもらおう)


 あそこなら、まだ少しはマトモな居住環境があるだろう、

 初代のグラフィックだとよくわからなかったが、

 配信版のだとしっかりした建物、内部だったはずだから……


(あ、早速馬車が来た、ってこれ騎士団だよな?)


 どうやら抜け道にもかかわらず早々に整備するみたいだ、

 するなら本道だろうと思うが、それだけ人員が揃っているのか、それとも何か理由が?


(こっそり近づいてみよう)


 前三頭の騎馬に乗っている男三人は、

 少し若く感じるものの、ゲームで見知った顔だった!


(間違いない、ゲーム序章で王子を護っていた騎士団員だ!)


 ひとりは王子と共に最初から仲間になるジュリン、

 もうひとりは別方向、グレミアス帝国に助けを求めに走り、

 随分後になってから仲間になるマクス、もう一人は多分、敵に真っ先に犠牲となる……名前あったっけ?


「よし、ではまずは倒れた樹や岩をどけよう」

「まだ倒れかけているもの、落ちかけているももあるだろう、気を付けろ」

「奥には山賊も居るらしいからな、気を付けろ!!」


 後ろの兵士たちと一緒にローテクな作業、

 魔法の世界なら『土魔法どばーーー』とかあってもいいのに、

 と思ったがそれはゲームが違うか、ファンタジーにも色々ある。


(よし、行っちゃおう!)


 ガサガサガサッ


「誰だ?!」


 俺は道の真ん中に立って、

 ゲーム内そのままの台詞を言った。


(いやこれ、口が自動で言わされているな……)


 こうして俺の、三年早い


『シンボリックウォーワールズ~第一作 光と闇の戦い~』


 が始まったのだった。


(一国も早く、あの四大悪女を味方にして、悪女ハーレムを作るんだ!!)

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