よりぬき掌編小説集「ミッドナイト文書」
西都リイチ
「飛び出せ若人」
飛び出せ青春! そんなキャッチコピーはもう古い。
放っておいたって若人たちは日々挑戦し、希望に向かって邁進しているものだから。
若者の将来設計が内向き傾向であると、大昔にニュースで報じられた。つまり、海外に出ずに、国内でほどほどに稼げればいいと考える若者が日本人に多いということだ。結構なことであると思う。なにもワールドワイドに生きることだけが正解ではない。好きに生きるとは選択肢が選べるということだ。
……そう、僕だって、できうるならば、いつまでも故郷にとどまりたかった。美味しいご飯に自然豊かな土地。どこを探したって故郷以外に優れたところなんて見つからないさ。それは長年住んでいる思い出補正ではないと思う、賭けたっていい。
だから僕は今回のプロジェクトに乗り気ではない。だって期待を上回る結果にはならないだろう。
僕は明日より取り掛かる『第二の地球発見への道のり』プロジェクトの資料を見やってため息をついた。身支度も荷づくりもはかどらず、さっきから布団の上に体を投げだして、僕は無気力に天井を眺めている、もうかれこれ2時間になろうか。
猛勉強の末、念願の宇宙飛行士となった新人の僕は、環境破壊が進む地球に代わる、新たな安住の地「第二の地球」を探すための宇宙旅行班に配属になった。住める星なんて無茶だ。きっと徒労に終わるだろう。そして、地球より優れた星は見つからないだろう。僕は全く乗り気ではなかった。
「でも、やるしかないか……」
このままでは地球は朽ちていくのみ。嫌でも新しい住処を探さなければならない。それは宇宙産業に携わる人間に与えられた命題であった。遅かれはやかれ、母星は見捨てることとなるだろう。
『若人よ、いや全ての人間たちよ。飛び出せ、地球の外に。それしか選択肢がないのであるから。』
プロジェクトの表紙のキャッチコピーがむなしく響く。
ああ、出たくないよう。他の星になんて、行きたくないよう、いやだいやだ。
許されないワガママだった。
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