「呪われてますよ」


公認会計士になりたかった。しかしなれなかった。

‥なぜか。なんのことはない、勉強についていけなかったからである。



俺は下町で一介のサラリーマンとして働く毎日のなか、ふと昔の夢を思い出すことがある。それは帰路に就くまでの間のチャリ移動の時であったり、昼飯を食べようと茶のペットボトルをひねるときであったりする。儚い夢だった。が、自分のスペックの問題なんだから、あきらめるほかなかった。

俺が公認会計士になりたかった理由。それはたいしたことはない。親が勧める安定した高収入の仕事に就きたかったからだ。あこがれたわけでない、ただ堅実な道を目指しただけであった。



ある日務めている会社に飛び入り訪問の男がやってきた。田舎の小さい会社であるので、人員も少ない。周りに誰もいないので、デスクで書類を片付けていた俺が来客の応対をした。珍しいな、フロアに人がいないとは。


「初めまして。私『株式会社閻魔』の地獄公認会計士でございます」


ひょろっとした見た目に眼鏡をかけた、七三ヘアーの男。量産型の見た目の男が俺に名刺を差し出す。


「ああ‥地獄、公認会計士?」

俺の儚い夢に耳慣れない言葉がのっかっている、なんだ?


「御社の経理の一部を担当し、うまくアドバイスなど差し上げられましたらと思いまして、訪問させていただきました。地獄公認会計士とは、通常とは違い目に見えないものへの投資に関する専門職でございます」

「あの、なんですか?うちはいたって普通の会社であって、そのような提案は必要ありませんよ、失礼ながら、なぜ弊社へいらしたのですか?」

少しきつい言い方だろうか、俺は不信感を隠さずに男に問いかけた。

男は答える。

「いえね、御社の建物を覆いかぶさるようにして妖気が満ちているものですから。お祓い、社の建設、専属祈祷師の雇い入れなどに資金を使われたらいかがかと思いまして」

「なんだ?何を言っている?」

「このままでは御社は地獄へまっしぐらです」

何をばかなことを。



男の声に不信感を感じながらも、うちの社員に不審な事故が多発していたことを、俺は今ゆっくり思い出した。



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