「緑のある暮らし」
「きっとこれだ。間違いない」
息を弾ませながら、僕は白い花にそっと触れた。ポケットの情報端末に入っている画像と何度も見比べ、ついに目的の植物を発見した。
秘境のような入り組んだ洞窟に、僕は遠路はるばる、単独で調査に出かけた。目的は、この植物。もう何か月になる旅だったろうか、長かった。僕の使命は達成されたのだ。
「よおし、採取用のポットにそっと移し替えて……と。 あっ!」
僕が手にした植物は、はらはらとその花弁を散らした。棒のような茎が、僕の手の中にむなしく残る。ずいぶん大事に、壊れ物のように扱ったというのに、花はあっけなく散ってしまった。
「……この惑星でも、だめか」
僕はため息交じりに独り言ちた。
僕らの住む惑星ヤードは、植物というものが全くない。長い歴史で、種そのものもなくなってしまったのだった。そこで、宇宙探索員である僕たちが、ほかの惑星へ行って、なんとか植物を持ち帰り、母星で根付かせようとしていたのだけど……。
「どこの星でも同じだなあ。花なんて、育たないんだよ。この現代ではさあ」
僕はそういいながらも、未練がましく茎を掌で転がす。
ああ、夢見ていたなあ。緑のある暮らし。書物でしか、知らない事柄だけれども。
――それは刹那の希望。あまりにも短い、救いであった。
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