「地獄に行きたい」
地獄に行きたい。そう思い、毒薬を買い求めた。
見るからにどぎつい赤色の液体が、小瓶の中でどんよりと主張する。
「毒毒しい、とはよく言ったもんだ。毒薬の代表みたいな色だなこりゃあ」
俺は自宅の居間で胡坐をかき、購入した小瓶を指先でつまんでゆらゆらともてあそぶ。
つい先ほど自殺をしたいと思い立ち、ネットでちょいと調べて最寄りの裏商店街へと足を運んできたところだ。もう、この世のなにもかもに、俺はもう疲れた。
一番安い毒薬を、と無愛想な店主に声をかけるとこれを差し出されたので、俺は何も考えずにそのまま購入した。
商品が入っていた箱を見やると説明書が同封されていた。
「ん、なになに…『用法、用量を守り、正しくお使いください。空腹の状態で服用すると、効果が薄れる場合がございます』……ははは」
なんだこりゃ。身体によろしい風邪薬みたいじゃねえか、この文言。
何もかもにめんどくさくなっていた俺はここ最近まともな食事もとっていなかった。もちろん冷蔵庫はカラで、電気もガスも止められている。食いもんなんかありゃしねえよ。
「きっちり効いてくれなきゃ困るからよ」
俺は押入れからしわのついたコートを取り出し、最後の晩餐を買いに出かける。何を食おうかな。すしもいいが、あったかいもんがやっぱいいか。
久方ぶりに浮き立つ感情に、俺はしばし毒薬を忘れた。
よりぬき掌編小説集「ミッドナイト文書」 西都リイチ @ri-ti_saito
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