第4話

 教会の屋根で三頭の竜が気持ちよさそうに日光浴をしていた。左後ろの黒い竜がフリーデを見て羽を少し上げた。

「クロガネ」

 気の抜けたフリーデを見てクロガネは周りに警戒する必要がないと感じたのか、目をつぶり日光浴の続きに入った。フリーデは怯える教会の者に挨拶をし、仲間は近くの食堂にいることを聞かされそちらに向かった。

「いらっしゃい」

 カランという音を立てて食堂のドアを開くとカウンターにレザーアーマーを着て腰にレイピアを差したクローディア、そして茶髪の少し小柄な、薄緑色の帯でまとめた白装束を着た女が座って唐揚げを貪っていた。

「あっもう来た!唐揚げを!もっと唐揚げを!」

「少し残してあげなよクローディア、かわいそうだよ」

「うるさいわね!私は育ち盛りだから食べないと駄目なの!リンネ、あんたももっと食べなさい!そんなんじゃ大きくなれないわよ!」

「私のお母さんかよ・・・」

 店長は嬉しそうに料理を作っている。

「まだ揚げてやるから大丈夫だよ、いっぱい食いな」

「ありがとう店長!」

「ずいぶん騒がしいわね」

 フリーデがクローディアの隣に座った。

「よう救世主様、助かったぜありがとうよ」

「いえ。賞金がかかってたからもらいに来ただけです」

「そうかそうか。悪いことはできねえやな。ほらあんたも唐揚げどうだい?」

「ありがとうございます」

 クローディアは唐揚げをたくさん食べて満足気に麦茶を飲んでぼーっとしていた。

「ケガはないフリーデ?」

「うん」

「ある訳ないでしょー。全身鋼鉄女なんだからー」

「ちょっとそれ失礼じゃないの?フリーデだって女の子なんだから」

「この嬢ちゃんそんなに強いのかい?」

「強いなんてもんじゃないわよー。百人と戦ったってケガしてるのなんて見た事ないんだからー」

「そりゃすごい!」

 フリーデは戦いで負傷したことがない。病気になったりお腹を壊したりする事はあるが、外からの攻撃はどんな攻撃でも平気だった。せいぜい関節を少し痛める程度で、アリの時の『硬さ』を受け継いだものだとフリーデは理解している。

「なんだか生まれた時から魔法がかかっているみたいで、外からの衝撃はだいたい平気なんです。どんな高さから落ちても平気だし」

 店長は唐揚げをフリーデの前に置いて感心した。

「そりゃ強い訳だ。ほれ」

「ありがとうございます」

 美味しそうな唐揚げだ。クローディアは再び唐揚げを見始めた。

「ラインハルト様と嬢ちゃんがいればこの国は安泰だな」

「ん?」

「いやな、最近兵士から聞いた話なんだが、他の大陸から渡ってきた海賊が相当な手練れだって噂なんだ。この国を侵略しに来たんじゃないかって話で王都も今ピリピリしてる」

「そうなんですか」

「山にいた竜人達もここぞとばかりに海賊側についたとかって噂もあってな。本当だとしたらかなりきな臭い事になりそうだ」

「そ、そんな」

 リンネは怯えている。人型をした竜である竜人は山に隠居していてこれまで王国とは干渉しなかったが、強引な開発により少しずつその住処は追われ始めている。海賊達と手を組めば脅威になることは間違いないだろう。

「戦争にでもなったら俺達の暮らしも大きく変わっちまうだろうな」

 クローディアの口がもぐもぐしている。話し込んでいる間にフリーデの唐揚げが一個減っていた。

「戦争か・・・」

 クローディアとリンネ、そして竜達との気ままな暮らし。フリーデは自分の守りたい者達を考えながら唐揚げを食べた。

「フリーデ」

「ん?」

 クローディアは真面目な顔でフリーデを見た。

「一度ノースポイントに行ってみよう。海賊達のことを見極めないと」

「クローディア・・・」

「私は家に追い出された身だけど、騎士としてこのまま放ってはおけない」

 リンネがクローディアを心配そうに見た。

「でもまた余計な事するなとか言われるんじゃないの?お父さんまた怒らせちゃうよ」

「お父様の機嫌なんて関係ないわ。私は私のしたい事をする。竜騎士として悪い奴を倒す!」

 フリーデは笑みをこぼしながらため息をついた。

「分かった分かった。まったく正義の味方はこれだから」

「はああやだなぁ〜」

 リンネが深いため息をついた。

「無理はしないから大丈夫よ」

 フリーデはそう言うと立ち上がり、歩きざまリンネの肩をポンポンと叩いて食堂を出て行った。

「行くわよリンネ!ごちそうさま店長!」

 クローディアも立ち上がって食堂を出て行くと手を上げた店長を尻目にリンネも慌ててついてきた。竜達が三人を見て地上にドシンと降り立った。クローディアは真紅の竜イフリートに右手から背中に飛び乗り、リンネは緑の竜オリジンを寝かせて背中によいしょと乗った。フリーデはクロガネと目を合わせてからクローディアと同じように右手から背中に飛び乗った。

「行こう。港町がどうなってるか偵察する。リンネお願い」

 三頭の竜が一斉に羽ばたいて舞い上がると、地上は砂埃が舞い上がった。リンネが目を瞑って両手を組み合わせ印を作ると、紫の光の膜に包まれた竜達が一気に加速した。

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