第5話
三人は港町ノースポイントが遠くから見える崖の上に降り立った。ノースポイントから煙があがっている。リンネは不安そうに声をあげた。
「海賊達に占領されちゃったの?」
「いや・・・まだそういうわけじゃなさそうだけど。でも相当やられてるわね」
町の半分以上は既に焼け落ちていて、住宅街があった場所から煙があがっていた。クローディアは歯を食いしばった。
「海賊船も何隻も壊れてる。きっともう何回も襲われてるんだ」
「クローディア、すぐに王都に引き返そう。女王様に知らせないと」
「あ、あれ!」
リンネが海を指差した。海賊船が三隻ノースポイントに向かっている。
「まずいわね、あんな状態でまた襲われたら・・・ちょっとクローディア!?」
「見て来るだけだから!」
クローディアはイフリートに飛び乗りノースポイントへ飛んで行った。
「リンネ、イフリートのサポートをお願い」
「分かった」
フリーデもクロガネに乗ってクローディアを追いかけた。
先行したクローディアはノースポイントの上空から町を見下ろした。遠くから見ていた時は港の方で壊れた海賊船が放置されていると思っていた。だがよく見ると港の方には木でできた新たな砦のような物が作られている。船は壊れていたのではなく、上陸したのち分解して戦いながら野営地を築いていたのだ。焼け落ちた住宅街とは対照的に、新しい砦の存在は海賊が上陸し、ノースポイントを略奪して占拠したシンボルとなっていた。
「もうノースポイントの人達は残ってないのね・・・」
「クローディア!」
「フリーデ!ノースポイントはもう占拠されてる!私は海にいる奴らをやるからあんたは砦を潰して!」
クローディアは船の方へ飛んで行った。フリーデは上空からクロガネを急降下させた。海賊達がフリーデの存在に気付いて警鐘を鳴らし始めた。クロガネが砦の上空から炎で薙ぎ払った。海賊が弓矢で応戦するが高速で飛んで行くクロガネにはまったく当たらない。クロガネが炎を吐きながら二往復すると砦は火の海と化した。
クローディアは海の三隻に急速に近付いた。海賊側もどうやらクローディアに気付いたようでバタバタと準備を始めた。イフリートが高速ですれ違いざま左の船の上空から炎を吐いた。船から海賊の悲鳴があがり、矢も飛んでくるが当たらずイフリートが上昇し一旦離れた。
「舞踏士!」
海賊が合図すると舞踏士と呼ばれた白装束の男が二隻にそれぞれ現れた。舞踏士が船の上で独特な踊りを始めると船が水のヴェールに包まれた。イフリートが戻ってきて右の船に炎を吐くと、水のヴェールで炎が弾かれてしまった。
「な!?何よあれ!」
クローディアはイフリートでもう一度、今度は真ん中の船に炎を吐いたがやはり炎は弾かれ無駄だった。
「炎が通じないなんて・・・」
クローディアは船の上空で途方に暮れた。
「クローディア!止まっちゃ駄目よ!」
フリーデの声にはっとしてクローディアは下を見た。海賊達が弓を構えている。
「イ、イフリー・・・!」
「撃てぇ!!」
少し離れた所で船と平行に飛び続けていたリンネが叫んだ。
「クローディア!しっかり掴まってて!!」
海賊達が一斉に矢を放った。クローディアがぎゅっと身を固くするとリンネが両手で印を組み、イフリートが紫の光に包まれた。するとイフリートは突然加速し、飛んでいるリンネの竜とまったく同じ動きをして船から急速に離れた。大量の矢がイフリートがいた辺りを飛んで行き、勢いを失って海に落ちた。急な加速にクローディアは手綱を持ったままひっくり返り、宙吊りになってからイフリートをよじ登った。
「ぐえっ!た、助かったわリンネ」
クローディアの横をクロガネが高速で通り過ぎた。風で髪が前に持っていかれたクローディアは、髪を押さえながら叫んだ。
「あいつら炎が通じないわよ!!」
「見てたわ!」
フリーデは叫ぶと剣を抜いてクロガネの上で中腰になった。
「行くわよクロガネ!」
フリーデは猛スピードのクロガネから飛び降りた。海賊達は啞然とした。
「は?」
先に飛んで来たクロガネが両腕を曲げると翼がギラリと輝いた。真っ直ぐ飛んでいたクロガネが突如横向きになり、反時計回りに回転しながら振り子のような軌道を取って落ちてくると右の船を翼で切断した。その勢いで再上昇するとクロガネは元の姿勢に戻り船から離れていった。
「な、何だあの竜は・・・あっ!?」
隣の船への斬撃に気を取られた中央の海賊が空に視線を戻すと、フリーデが勢いよく飛んで来た。
「ばっ馬鹿・・・!!」
猛スピードで船首に落ちたフリーデは樽やら海賊やらを巻き込んで吹き飛び続け、船尾の方までめちゃくちゃにひっくり返した所でようやく止まった。横に避難した海賊が呆然とフリーデを見ていた。
「な、なんだこいつ・・・」
「ば、化け物だ・・・!」
「さあ!行くわよ海賊共!」
海賊を相手にフリーデの大立ち回りが始まった。クローディアはリンネと共に上空から船を見下ろした。
「ホントムチャクチャなコンビね」
「さっきのイフリートの火を防いだ術・・・私の国で見たことあるやつだった」
「え?」
「もしかしたら私の国の人間も関わってるのかも・・・」
「マジ?あんたどうするの?」
「どうするって・・・」
転覆する右の船から突如、錐揉み回転しながら二つ空に飛び上がった者がいた。
「な、なに!?」
竜の翼が生えた人型の生物が二体、剣を持って空中に浮いている。
「りゅ、竜人!」
胴体以外の部分に竜の鱗がびっしりと生え、顔も竜の竜人は、喋らなければ区別がつかない程竜に酷似していた。クローディアは腰のレイピアを抜いた。
「リンネ!私の後ろについてきて!」
「わ、分かった!」
リンネは印を組むと竜人に向かって飛んでいくイフリートの後ろにピッタリ付いた。竜人は左右に分かれ、左の竜人をイフリートが追う形になった。イフリートの前を飛んでいた竜人が速度を落とし、クローディアの右に平行して飛ぶと、竜人が剣で斬りつけてきた。クローディアは体を傾けてかわすとすぐさまレイピアで突き返した。竜人の肩を貫くと、竜人は呻きながら器用に回転して方向を変え、イフリートの真下に付いた。イフリートへの攻撃を察したクローディアはイフリートごと回転し、逆さになって竜人の胸を突いた。竜人は絶命して海へ落ちて行った。もう一体の竜人はオリジンの後ろに付き、リンネが振り切ろうとしてクローディアと別れ右に飛んだ。しかし竜人の方が小回りが効いて振り切ることができない。
「くっ・・・!」
リンネの方がクローディアより竜の扱いが上手い。変幻自在に動くリンネと竜人の飛行に一度離れたクローディアはついていけない。
「リンネ・・・!くっ速い・・・!」
リンネは飛びながら周囲を見回して、印を組んだ。
「お願い!」
オリジンは方向を変え、上空から下へ向かって落ち始めた。竜人もついてくる。竜人が剣を構え、オリジンを突こうとしたその時、横から紫色の光に包まれたクロガネが飛んで来てすれ違いざまに竜人を翼で斬り裂いた。海面すれすれでオリジンは浮上して加速を緩めた。
「ふぃー怖かったぁ」
ふわふわと高度を上げて行きリンネはクローディアと合流した。
「はーやっぱ頼るべきはクロガネよね」
「いや私も倒したし!」
「フリーデは?」
クローディアが船を指差すと、フリーデが船の上で一人佇んでいた。
「ええ・・・もう全部倒しちゃったの?」
「さすがに少し疲れたみたいだけど」
フリーデは目ざとく船の上で酒を見つけると何本か懐に抱えた。
「クロガネ!」
クロガネが船の上にドシンと降り立つと船からバキバキという音がした。船のあちこちから水が入って来ている。フリーデが急いでクロガネに乗って飛び立つと、船は音を立てながら海に沈んでいった。
「フリーデ!無事?」
「大丈夫よ。ビールをゲットしたわ、はい」
フリーデは二人にそれぞれ一本ずつ瓶ビールを投げ渡すと、手綱の金具に引っ掛けて栓を開けた。当然のごとく揺れまくっていた瓶ビールの口からは泡が溢れ返った。
「うは!カンパーイ!」
「「カンパーイ!」」
ビールを飲みながら三人は竜で空を駆けて王都へと引き返した。
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