第9話
「うーん、全然いないわね。海賊」
フリーデとリンネは北の海岸に再び出向いて崖から偵察していた。
「この前砦を壊したからしばらく来ないんじゃ?」
「ラインハルトが他の場所がどうたらとか言ってたし、次は違う海岸から来るつもりなのかしら。ちょっと周ってから王都に戻ろっか」
「うん」
二人は東の海岸伝いに南に下ることにした。
「へ、陛下!大変です!!海賊がすぐそばの東の海岸に現れました!!かなりの数です!!」
謁見の間に入ってきた兵士が叫んだ。
「やはり来ましたか。ジェット、クローディア、準備はいいですね?」
「はっ!すぐに出撃します。行くぞクローディア」
「はい!」
城の外で部下と共に待機していたラインハルトは海賊襲来の報告を受けた。腕を組んで佇んでいたラインハルトは兵士達を見回した。
「いいかお前達!これは戦争だ。今日死ぬかもしれん!だが女王陛下のために命が尽きるまで戦え。俺達は騎士だ!海賊相手に怖気づくんじゃないぞ!!」
「ハッ!!」
「敵は東の海岸だ!」
髭面の厳めしい体の大きな男が五十隻ほどの海賊船団の中心の船で海賊達に囲まれて立っていた。腕を通さずに肩から羽織った派手な上着が潮風ではためいている。船首の海賊が叫んだ。
「バルフレア!王都が見えたぞ!」
「おう!!」
バルフレアは樽に乗っている酒瓶を取りグイッと煽ると叫んだ。騎士団が馬に乗って海岸で整列しているのが見える。
「見ろてめえら!上品な紳士諸君が陸地で俺達を出迎えに来てくれたぞ!あのメルヘンチックなお城が見えるか?あの素敵なお城とかわいいお嬢様方をみんな俺達が頂くんだ!行くぞてめえら!!」
海賊達が斧の柄で船の床を打ち、おう!おう!おう!と叫び始めた。
「邪魔する奴らは皆殺しだ!容赦するな!!奪い尽くせ!!」
「オオオオオオオ!!」
舞踏士が独特なステップで踊り出すと、海賊達が赤い光に包まれ出した。
「グオオオオオオ!!」
海賊達が術によって正気を失い叫び出すと、海岸に船が乗り上げたと同時に砂浜に飛び降り、騎士達に向かって猛然と駆け出した。
「抜剣!!」
ラインハルトが叫ぶと騎士団は剣を抜き、胸の前に構えた。
「行くぞ!」
ラインハルトの声を合図に横一列に並んだ騎士が馬で砂浜を駆けて行く。正気を失った海賊達が斧を振りかぶって騎士達に飛びかかった。一斉にぶつかり合い激しい音と共に戦闘が始まった。激突した衝撃で馬から落ち、斧で斬り殺される者、相討ちになる者達、騎士が空中で相手を剣で突き、うまく相手を捌いて海賊を倒せば、その一方で力任せに騎士を突き倒し、斧でとどめを刺す者。激しい応酬にお互いの人数がどんどん減っていった。
謁見の間に兵士の叫び声が聞こえてきた。
「陛下!西の山から竜人の集団が現れました!」
「海賊とは別行動ですか。状況は?」
「竜騎士部隊が王都の上空で交戦するようです!」
竜騎士部隊が王都上空を高速で滑空していた。クローディア達は西から王都に入って散り散りになった竜人をそれぞれ視界に捉えた。
「来たぞ!竜人だ!殲滅しろ!」
「はっ!」
「もう海岸の騎士達のサポートは無理だ!彼等を信じてこっちに集中しろ!竜人を王宮に入れないようにするんだ!」
「わかりました!」
それぞれが高速で散って行き、王都上空で竜人達との空中戦が始まった。竜騎士は五十人ほどに対し、竜人達の方は百体近くいる。やがて建物を縫うようにして飛んでいく竜人を、一人の竜騎士が捕捉して後ろに付いた。騎士が後ろから槍で突こうとすると、竜人は器用に空中でわずかに軌道を変えて槍をかわし、騎士の横から剣で騎士を突き殺し、制御を失った竜は建物に体をこするようにして墜落した。その場所より東にいたもう一人の竜騎士が別の竜人と交戦状態に入った。竜騎士の竜は追い越すようにして竜人の上から炎を吐き、竜人がかわした所を後ろから来た別の竜騎士が剣で斬り殺した。
「よし!次だ!」
「おう!」
二人の竜騎士は敵を探して一旦上昇した。
火を吐く竜人もいる。竜騎士と空中で交戦していると、その横から突然喉をうならせながら近付いてきた竜人が火を吐き、竜が燃えながら地上に墜落した。竜騎士は竜から投げ出され、立ち上がると、肩を押さえながら別の竜に乗るため城へ戻って行った。交戦する時の炎と破壊であちこちから火の手が上がり始めた。
クローディアが竜人を捕捉すると、レイピアを抜いて後ろに付いた。後ろから突くがかわされ、竜人が横から剣で斬りかかると体の態勢を変え斬撃をかわすが、反撃に出ようとすると再び距離を取られ、クローディアの後ろや下に付かれてなかなか攻撃に移れない。
「くっちょこまかと面倒な奴!」
何度かの接近の後、竜人が横から剣でイフリートを斬ろうとした。
「あっ!イフリート!」
クローディアはイフリートを守ろうと急いで縦回転させた。クローディアはバランスを崩して手綱を持ったまま空中にぶら下がった。
「うわ!」
そこに竜人が斬りかかってきて、右のレイピアでいなしたものの左肩を少し斬られ、危うく手綱を離しそうになった。
「ぐ!」
竜人がクローディアを通り過ぎた時、ジェットが飛んできて竜の腕が竜人を掴み、建物の横に投げ付けた。
「クローディア!無事か!?」
態勢を立て直して一旦建物の屋根に着地したクローディアは左肩を押さえて叫んだ。
「ありがとう!大丈夫です!」
「竜をかばうな!」
「え?でも・・・」
ジェットの後ろから竜人が斬りかかってきて、上に急上昇したジェットは空中でターンして敵を追いかけ始めた。ジェットの後ろを二体の竜人が追いかけ、ジェットは三対一になった。クローディアは建物から飛び立ってジェットを追いかけた。
「助けないと・・・!」
ジェットは前の竜人に追い付き、槍を振ると竜人はかわして上に付いて斬りかかってきた。ジェットが旋回して竜が上になると、竜は肩を斬られながら竜人を掴み、旋回してジェットが上になると竜人を建物に叩き付けた。後ろの竜人二体がジェットの左右に付くと、竜が右に炎を吐き、右の竜人が離れると同時に左の竜人に槍で攻撃し、竜人を串刺しにした。戻ってきた右の竜人が斬りかかると、ジェットは少し左に旋回し、竜の翼が斬られたが、右に槍を持ちかえると逆手になった槍が竜人を貫いた。ジェットは騎士を失って屋根に座っている竜を見つけると、その竜の近くに着地した。クローディアが追いつきジェットの近くに着地した。
「クローディア、竜をかばって負傷するなど竜騎士のすることではない」
「で、でも竜は大事な相棒です!」
「騎士が戦場で馬をかばって死ぬ姿を見たことがあるか?」
「・・・いえ」
「竜騎士にとって竜は相棒じゃない。戦う為の道具なんだ。竜が死んだら新しい竜に乗って戦う、それだけだ」
「そんな・・・!」
「確かに竜は強く、美しい。長く一緒に過ごしてきて、あなたが竜に愛着を持つ気持ちもわかる。でも竜騎士は戦うのが仕事だ。兵士なんだ。女王陛下とこの国のために戦う手段として竜に乗っているんだ」
クローディアは言葉が出なかった。
「イフリートを大事にしたいなら竜騎士は辞めろ。何の為に戦うかを考えろ、戦う手段など考えるな」
ジェットは新しい竜に飛び乗ると再び空を駆けて行った。クローディアはしばらく動けなかった。イフリートが城の方に首を動かした。クローディアは夕日に輝くイフリートを見た。
「何の為に戦うか・・・」
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