第10話

「フリーデ!あれ!」

 フリーデとリンネは海岸沿いに北から飛んで来て、王都の東の海岸に騎士団と海賊達を見つけた。交戦は終わったようで、騎士と海賊達が大勢砂浜で事切れていた。

「まさか一気に直接王都の横に来るなんて・・・あれは!」

 フリーデとリンネが砂浜に着地した。リンネは血と死体に満ちた砂浜に震えて声が出ない。靴に当たる波が血で黒く濁っていた。ラインハルトが剣を杖にして下を向いて膝をついていた。

「ラインハルト!」

 フリーデが駆け寄って声をかけると、ピクリと反応し、ラインハルトは顔を上げた。全身血だらけで喋るのがやっとのようだった。

「フリーデ・・・か・・・」

「勝ったの?」

「いや・・・半分・・・だ」

「半分?」

「半分が・・・王都に・・・止められなかっ・・・」

 ラインハルトがバランスを崩して倒れた。フリーデがラインハルトの上体を起こした。

「頼む・・・奴らを止めてくれ・・・陛下が・・・」

「半分?」

 リンネが周囲を見回した。かなりの数の海賊達が死んでいる。二百人はいるだろう。

「これで・・・半分・・・!」

「奴らを倒したら・・・褒美がたんまりだぞ・・・どうだフリーデ・・・ハハッ・・・」

「ラインハルト・・・」

「無念・・・だ」

 ラインハルトは息絶えた。死体だらけの砂浜は不気味はほど静かだった。王都の方から戦闘の声が聞こえてくる。フリーデは立ち上がった。あの優しそうな女王に危機が迫っている。怒りが沸き上がってきた。海賊達があの美しい女王をただで殺すとは思えない。メラメラと闘争心が燃え上がって来た。

「リンネ」

「うん」

「私は城に行ってくる。あんたは逃げて」

 リンネは震えながら手をギュッと胸の前で組むと、涙ぐみながらフリーデの方に向き直った。

「私も。私も行く」

 フリーデはリンネと頷き合って、空を駆けた。


 クローディアが城に行こうと飛び立ってしばらくすると、クローディアの屋敷の方から剣が交わる音が聞こえた。イフリートで屋敷の上に来ると、屋敷に火がついていて、外でクローディアの父親が竜人と戦っている所だった。

「お父様!」

 イフリートが庭に降り立ち、急いで駆けつけると竜人に父親が斬られ、父親は膝を突きながら力を振り絞って竜人の腹に剣を突き刺し相討ちになった。

「お父様ぁ!」

 クローディアは倒れた父親を抱き起こした。

「クローディア・・・お前こんな所で何をしてる。早く女王陛下の所に行け」

「でも・・・こんなに血が!」

「大丈夫だ、致命傷ではない。クリフに手当してもらう」

「お父様、私・・・」

「忘れたのか、お前は騎士だ。女王陛下のために戦え。お前に竜など必要ない」

「ジェット様にも言われました。イフリートを大事にしたいなら竜騎士はやめろと」

「竜騎士に憧れて竜に乗って戦っていたいのだろうが彼等とお前は違う。戦う目的と手段を一緒にしてはいかん」

「・・・はい」

「海賊共が城に向かっている。陛下を頼むぞ」

「はい」

 クローディアは立ち上がってイフリートに飛び乗った。


 イフリートで西の方から城に向かって飛んでいく。火の手が上がる王都の上空にはもう竜騎士も竜人も姿が見えなかった。クローディアは城に着くとイフリートから降りて謁見の間に駆け込んだ。

「女王陛下!」

 女王がたった一人、謁見の間で玉座に座っていた。

「クローディア。無事ですか?」

「はい。海賊がこちらに向かっているそうです」

「海賊が・・・」

「騎士団はどうなりました?何か報告はありましたか?」

「騎士団と海賊が交戦していたはずです。海賊がこちらに向かっているということは・・・」

「そんな」

 外から男達の大きな笑い声が聞こえてきた。クローディアが外に出ると、正面から王都の炎を背景に、海賊達の大軍が笑いながら歩いてくる。クローディアは急いで城の扉を閉め、イフリートを扉の正面に立たせ、自らは歩いて行き、少し広まった場所でバルフレアが率いる三百人ほどの集団と対峙した。

「お?どうやら最後の騎士様のお出ましだぜ」

「ヒャハハハ!!いい体してんな姉ちゃん!」

 クローディアの周りを前の百人程の海賊達が取り囲んだ。

「特別大サービスだ、みんなで順番に戦おうじゃねえか。誰からやる?」

「ウス!俺から行きます!」

「よしお前からな。こいつを殺った奴はご褒美に一番最初に女王と遊ばしてやる。若くて美人らしいから気張って行けよ」

「よっしゃあ!」

「えぇ~こいつもかわいいじゃないすか!こいつも手籠めにしましょうよ~!」

「まあいいけどよー、手加減してやられても知らねえぞ。頑張って生け捕りにしたまえ諸君。ワシは年じゃからー動きとうーない。俺は最後でいいから遠慮なくやれや」

 最初の海賊が前に出てヘラヘラ笑っている。

(こんな奴らに・・・こんな奴らに女王陛下を触らせてなるものか)

 クローディアはレイピアを抜き、胸の前に構えた。

「私は私の一番したい事をする。この命尽きるまで、この国を護る為に全力で戦う。私は・・・私は騎士クローディアだ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る