第11話
「ぐえっ!!」
海賊が腹を突かれて絶命した。クローディアは肩で息をしていた。八十七人目の海賊が引きずられて横に寝かされた。バルフレアは拍手した。
「いやーほんと強いねぇ姉ちゃん。ったくそれに比べてだらしねえなてめえら。ちゃんとメシ食ってきたんだろうな?」
クローディアは膝をついた。左肩からの出血で意識が朦朧としてきた。立ち上がって再び戦い始めたが、八十八人目の斧の攻撃をかわした時バランスを崩して転んでしまった。しかし転びながら上体を起こしレイピアで素早く突くと八十八人目が力尽きた。バルフレアが八十九人目を見て笑った。
「どうやら次で最後だな。おめでとうザジ、てめえが女王様の初めてのお相手だ。バッチリ決めろよ」
「いやっほう!やりぃ!」
クローディアは疲労と出血で立ち上がれなかった。両腕を突き、顔を上げると海賊の嬉しそうな顔が見えた。
(ここまでか)
夕日が沈もうとしている。あの方向にクローディアの屋敷がある。
(お父様は無事だろうか)
厳しいが誇りに思っていた父の顔を思い出し、最後まで戦おうと力を振り絞って立ち上がった。沈もうとする夕日がやけに眩しかった。
「あん?」
バルフレアが何かに気を取られ上を見た。竜の咆哮が聞こえた。茜色の空に竜が二頭飛んでいる。クロガネからフリーデが飛び降りて、ドォンという音と共に土埃を舞い上げながらクローディアの前に降り立った。
「おおお親分!空から女の子が!!」
「おっ落ち着け!落ち着けてめえら!」
慌てふためく海賊の所へクロガネが猛スピードで突っ込んで来た。クロガネがラリアットするようにして回転しながら滑るように着地し、回転する刃の翼に巻き込まれた海賊達は声を上げる間もなく絶命した。クロガネが両腕をブンブンと振り、返り血を撒き散らすと吼えて威嚇した。
「りゅ、竜が!」
「止まったぞ!ぶっ殺せ!!」
海賊が襲いかかろうとしたがリンネを乗せたオリジンがすぐ上を通り過ぎると、風圧で海賊達が近付けず、その隙に紫色の光に包まれたクロガネがオリジンと同じスピードで急加速して飛び去った。
「くっくそ!なんだあの竜はふざけんな!!」
クローディアは力が抜けてその場に座り込んだ。
「ごめん遅くなった」
「待ちくたびれちゃったわよ」
「竜人に絡まれてたの。全員ぶん殴るのに少し時間がかかっちゃった。ジェットはまだ生きてる。少し休んでて」
「うん」
フリーデは海賊達に向き直ると、剣をスラリと抜いた。
「おいおいどうなってんだ?何者なんだよてめえはよ」
バルフレアがイライラして聞いた。
「クローディアの友達よ。でもここで全員死ぬんだから私の名前なんか知らなくてもいいわよね」
「せっかく楽しんでたのに台無しだよ。オイてめえら!さっさと片付けるぞ!」
「おお!」
「あんたは最後よ。そこでアホ面して待ってな」
フリーデは海賊の中に飛び込んだ。集団の中に潜り込むと、剣の重さをまるで感じないかのように、フリーデは冗談みたいな速度で剣を振り回す。血の嵐がフリーデの周りを吹き荒れる。海賊の斧がフリーデの肩に二本同時に振り下ろされたが、ガキンという金属音と共に、フリーデの体を傷付ける事ができず止まってしまった。フリーデは海賊の攻撃をあらゆる方向から食らったまま構わず攻撃を続け、敵を斬り捨てていく。
「なっなんだこいつ!!」
「化け物だ!」
「くそ!殺せ殺せぇ!!」
フリーデは止まらない。見る見るうちに海賊の死体が増えていった。
「掴め掴め!そいつの動きを止めろ!」
海賊達が数人がかりでようやくフリーデの腕を掴んで動きを止めると、フリーデは羽交い締めにされた。
「だあああああ!!」
フリーデが腕を力任せに振り回して、腕を掴んでいる海賊達を四人まとめて投げ飛ばした。
「うわあああ!!」
フリーデは羽交い締めにしている海賊の腕に噛み付くと、力任せに引き剥がした。まるで犬がネズミの尻尾を咥えて振り回すように、フリーデが頭を全力でブンブンと振り回すと、ぐったりした海賊は口から離れてどこかへ飛んで行った。掴まれた時に剣を落としてしまい、探すのが面倒になったフリーデは足元の斧を拾って目の前の海賊に斬りかかった。
「うらあああああ!!」
しがみつく海賊を力ずくで振りほどきながら斧を高速で叩き付け、死体を踏み越え、血飛沫を浴びながら犬歯を剥き出しにして戦うフリーデは鬼神そのものだった。
「あ、悪魔だ・・・」
「何なんだこいつ人間じゃねえ・・・!」
「に、逃げろ!」
「ひいい!!」
やがて海賊達はフリーデから逃げ出し始めた。するとタイミングを計ったかのように逃げ出した海賊に向かってクロガネが飛んで来て回転斬りを見舞いながら着地した。クロガネが退路を塞ぎ、海賊達を見て咆哮した。
「グオオオオ!!」
「く、くそ・・・もう駄目だ・・・」
「おしまいだ・・・」
後列の海賊達は完全に戦意を失い、泣きながらフリーデの殺戮の嵐が迫って来るのを呆然と見ていた。クロガネの足元にフリーデが到達した時、バルフレア以外の全ての海賊が死体となって転がった。
「フーッ!フーッ!」
日が暮れて暗くなっていた。返り血に塗れたフリーデが振り返ると、クロガネとフリーデの眼だけがギラギラと光っている。
「う・・・」
バルフレアはフリーデを見て後退った。
「嘘だろ・・・二百人はいたんだぞ」
「あんたの相手は私よ」
バルフレアが振り返るとクローディアが立ち上がり、休憩して集中力を取り戻したクローディアは、お手本のような美しい姿勢でレイピアを構えた。
「てめえ・・・!」
「かかって来い」
バルフレアは斧を構えた。二人が対峙し、じりじりと間合いを詰めた。
「オラアア!」
バルフレアが振りかぶった瞬間にクローディアは踏み込んでバルフレアの右肩をレイピアで突き、素早くステップして下がった。
「ぐっ!」
バルフレアの右肩から出血し、右腕がダラリと下がった。バルフレアは斧を左手に持ち替えた。
(くそっ速すぎてまったく見えねえ・・・!)
再び間合いが狭まって来た。バルフレアが再び斧を振ろうとして腕が動いた瞬間、クローディアがレイピアで左肩を突き、クローディアは素早くバルフレアの左に回り込んだ。
「があっ!」
突かれた衝撃でバルフレアの左半身が後ろに仰け反り、左胸が開いた所に踏み込んだクローディアの刃が潜り込み、心臓を貫かれたバルフレアは力尽きて前のめりに倒れた。クローディアも疲れてその場に座り込んだ。フリーデは斧を捨てて歩いて来た。
「よくたった一人で頑張ってたわね。さすがタイマン最強の騎士様だわ」
「あんたもう少し人間らしい戦い方しなさいよ。いくら何でもムチャクチャすぎ」
「まあいいじゃない勝てばさ。私の剣どこ行ったか知らない?」
リンネが降りてきてクローディアに駆け寄ってきた。
「クローディアぁ!!」
リンネが抱き付くと二人は勢い余って地面に倒れ、クローディアは肩の傷が痛んで呻いた。
「ぐえっ!ちょっ痛い!痛いから!」
「あっごめん!」
「・・・二人共ありがとう」
クローディアは上半身を起こしてイフリートを見た。
「今までありがとうイフリート」
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