第2話
疾走する馬の蹄が草原の土を跳ね飛ばした。
「ヒャッハァァァ!!」
馬に乗った盗賊が、その勢いのままに門番の兵士を剣で斬り殺して町に入った。
「一番乗りィ!」
武装した男達が後に続いて馬で町に入ってきた。二十人ほどの盗賊の集団が今まさに平和な田舎町を略奪しようとしていた。突然の盗賊の出現に、足がすくんでしまって動けない者達が取り残されている。
「五人ずつに分かれろ。お前らは金目の物を取ってこい。お前らはいい女を引っ張ってこい。お前ら十人は俺と一緒に、邪魔する奴らの掃除だ」
「ウス」
赤い顎髭の大男が指示を出した。
「城の奴らが来るまでが勝負だ。行け!」
「オオオオオオ!!」
盗賊達が馬で駆けていった。あたりは悲鳴と恐怖で埋め尽くされた。
「な、なんだお前ら!!ぎゃあ!!」
「く、くそ!盗賊だ!盗賊だぁー!!」
外に出てきた男達と武装した十人組の間で戦闘が始まった。戦い慣れている盗賊達の方が強く、しかし多勢に無勢。町の者が十人ほど倒れる間に盗賊の方にも死者が出始めた。それを見た赤髭の男が、背中に担いだ大きな斧を持って馬から降りた。赤髭の男を目にした男が叫んだ。
「お、おいあいつ!」
「そ、そんな!ガルムだ!盗賊ガルムだ!」
ガルムと呼ばれた赤髭の男が斧を振りかぶりながら猛然と駆けてきた。
「おおお!!」
ガルムが斧を振り回すと、一振りで二人の男が斬り倒され息絶えた。それを見た男達は恐怖で少しずつ後退を始めた。
「ばっ化け物だ・・・!!」
盗賊達が少しずつ押し始めた。その時、どこかから竜の咆哮が響いた。全員が一斉に空を見上げ、ガルムは舌打ちした。
「ちっもうおでましか」
「た、助かった・・・!」
盗賊達は動揺した。
「く、くそ!」
「嘘だろ!もう来やがった!」
盗賊達の上空を、光を背にしてシルエットの竜が一頭通り過ぎた。ゴオッという音と共に風圧で地上の者達の服がはためいた。
「やばいすよ!よりによって竜騎士が来るなんて!」
「オタつくんじゃねえ!」
別の竜の咆哮が聞こえてくる。後からニ頭の竜が町の上空に目がけて飛んで来ているのが見えた。
「さ、三人も・・・!!」
「に、逃げましょうボス!あいつら相手じゃみんな燃やされちまいますよ!!」
「ビビってんじゃねえ!町に火なんか吐くわけねえだろ!それに竜騎士が降りて来るまでまだ時間がある!竜は高い所にしか降りねえんだよ。竜は地上が嫌いなんだ。あいつらが降下しようとウダウダやってるうちに金目の物をとっとと集めて・・・!」
後から来た二頭の竜達が上空を通り過ぎた。竜は風圧だけで地上の者に恐怖を感じさせる。
「ひいい!!」
ガルムが上空を睨んだ時、最初の竜が戻ってきて遥か上空をゆっくりと通り過ぎ、乗っていた人間が宙に舞った。
「え?」
黒いシルエットが右腕に剣を持ちながら落ちてくる。まっすぐ落ちてくる剣士に盗賊は思わず悲鳴をあげた。
「うっうわああああ!!」
ドォンという音と共に剣士は地上に降り立った。土埃が激しく舞い、地上の者達は飛んでくる小石に腕で顔をかばった。
土埃の中、剣士が立ち上がった。下敷きになった盗賊はそのまま息絶えている。土埃が晴れると剣士は頭を降って土埃を払い落とし、剣をガルムに向かって突き出した。
「お前がこいつらの親玉だな!その命、もらい受けるぞ!」
騎士の艷やかな黒髪が肩にしだれかかった。
「な、なんて女だ!」
「なんであの高さから飛び降りて死なねえんだ!人間なのか!?」
町の者達も呆気に取られている。
「参る!」
剣士は高速で間合いを詰めガルムに斬りかかった。ガルムは剣を嫌がり、一歩後ろに跳んだ。と、即座に足を踏ん張り思い切り斧を横薙ぎにした。
「むうん!」
剣士は剣を横向きにして体にピタリと付け、斧を受け止めた。その勢いを殺すため剣士は右に跳んだ。それを見越していたガルムは一歩踏み込み、左の鋼鉄のグローブで思いきりボディブローを食らわせた。
「どうだ!」
剣士と目が合ったガルムは驚愕した。鋼鉄の拳が完璧に脇腹に入ったのにまったく効果が無い。斧とかち合った剣を上に振り上げると刃が擦れてギャリリと音がした。
「せい!」
剣士がガルムを袈裟斬りに斬り伏せた。ガルムは血を吐きながら倒れ、斧が地面に突き立った。
「フリーデだ・・・!」
「竜騎士フリーデだ!」
周りから歓声が挙がった。盗賊達はフリーデの名を聞いて震え上がった。
「だ、駄目だ!逃げろ!!」
家や女達を漁っていた盗賊達もガルムの死体を見て一目散に逃げだした。盗賊達は急いで馬に乗り町を出て行く。フリーデは町の外に出た盗賊達に向かって剣を突き出した。
「クローディア!!」
竜の咆哮が響いたかと思うと、黒髪の美女を乗せた真紅の竜を先頭に、三頭の竜が風圧を伴いながらフリーデの頭上を通り過ぎ、町の奥から盗賊達の方へ飛んで行った。
「焼却しろイフリート!」
クローディアと呼ばれた騎士が叫ぶと竜が口から火炎を吐き、炎の嵐があっという間に盗賊達を焼き尽くした。猛スピードで通り過ぎた竜達が上昇して折り返し、町の奥の方へと飛んで行った。
「す・・・すごい・・・!」
「盗賊達が一瞬で・・・」
竜の火でチリチリと焦げた草原から煙があがっている。町の者達は救われた嬉しさよりも竜の強さに圧倒されて言葉が出なかった。
「いい子だ」
フリーデは振り返ると町の奥にある教会を見た。教会の屋根に三頭の竜が降り立ち、イフリートが誇らしげに両翼を広げているのが見えた。
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