第9話
今日は、クラスメイトに挨拶をしてみよう。
そんな決意をしながら学校へ向かう。
あなたは何も言わないけれど、私の方をちらっと見てからはずっとにこにことしている。
きっと私がそんな決意をして緊張しているのを笑っているのだろう。
「お前が頑張ってるのが嬉しいんだよ」
心を読むのは本当にやめてほしい。
筒抜けなのは知っているけど、恥ずかしくなる。
手を強くぎゅっと握り抵抗の意思表示だけしておく。
「まあいいわ。身体測定だけれど、怪我だけはしないよう気をつけてね」
「うん、無理はしないようにするよ」
2人で話しながら歩いていると、すぐに学校に到着した。
クラスメイトに挨拶すると考えると、緊張してくる。
2人で教室に入ると、三分の一程度は席が埋まっている。
席に行き鞄を置いた後、隣の席の女子生徒に狙いを定めて声を出した。
「お、おはよう」
ちゃんと言えたか、ちゃんと聞こえたか、不安になる。
隣の席の女子生徒は一瞬きょとんとした顔になったが、すぐに優しい笑顔でおはようと返してくれた。
私は嬉しくなってあなたの席へ向かう。
こちらを見ていたあなたは、自分のことのように嬉しそうな笑顔で、私を撫でてくれた。
「変じゃなかったかしら?」
あなたにだけ聞こえるように、小さな声で聞いてみた。
大丈夫だったよ、頑張ったねって言ってくれて、すごく嬉しい。
私は気分が良くなって、彼の後ろの席の女子生徒にもおはようと言ってみた。
その生徒は私たちの会話が普通に聞こえていたらしく、面白そうにおはようと返してくれた。
そのあとも、私のことを思ったより面白いとか、取っ付きづらいかと思ってたけどそうでもないんだねとか、いろいろ言ってきた。
私はそんな風に話しかけられてびっくりしてしまって、あなたに頼ってしまう。
あなたは小さい頃のように緩衝材になってくれた。
私が言葉にできなくても、私の思ってることをスムーズに言葉にしてくれて、私とその女子生徒のやりとりを手助けしてくれた。
私は嬉しい気持ちになりながら席に戻り、授業を受けていく。
身体測定の時間は午前の3時間目と4時間目の2時間分を使って行われる。
朝少しだけ仲良くなれたあなたの後ろの席の人、名前は春さんというらしい。
春さんと更衣室に行って着替え、グラウンドに向かった。
最初に各自に記録用紙が配られて、好きな順番で各項目を記録していけと言われる。
「一緒に回りましょう」
あなたのところへまっすぐ向かい、声をかけた。
「そうだな、適当にやってくか」
「私も混ざって良いのかな?」
どうやら春さんが付いてきていたようだ。
「構わないよ」
あなたが私の代わりに返事をしてくれた。
私たちは3人で一つずつ測定していく。
春さんも運動神経は良いようで、私ほどではないがなかなかの好記録だった。
あなたの記録を春さんと2人で見て、あまりの悲惨さに顔を見合わせてしまう。
春さんは声を出して笑い、私はあなたが怪我をしなくて良かったという安堵を抱くと同時に、あまりに悲惨な記録におかしさよりも心配が買ってしまった。
あなたは春さんには笑ってんじゃねえと言い、私には同情するくらいなら笑われた方がマシだと言う。
しょんぼりしたあなたが可愛くて、私は気付いたらあなたを撫でていた。
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