第6話

「帰りましょう」


「そうだな」


 今日も手を繋いで、一緒に帰る。


 今日はなんだかダメな日。


 マイナスなことばかり考えてしまう。



「ねえ」


「大丈夫だよ」


「でも」


「ずっと一緒だって、言ったろ?」


「つらいの」



 こんなに苦しいのに、涙は出ない。


 喜怒哀楽、私の中には存在するのに、みんなには伝わらない。


 あなただけがわかってくれる。


 それが嬉しくて、哀しくて、つらい。


 私の中ではとぼとぼ歩いている。


 周りから見たら、何も変わらない私が歩いているのだろう。


 あなたに手を引かれて歩く帰り道。


 早く2人きりになりたい。



「俺がいたくて一緒にいるんだ。依存だとか言われることもあるけどさ、違うぞ。俺達は2人で1人で、片方だけじゃダメなんだよ」



 唐突にそんなことを言うあなた。


 安心させる為だけに、普段は言葉にしないことまで言葉にしてくれる。


 そんな気遣いが嬉しい。



「私は、口下手で、無愛想で」



 嬉しいのに、自分を卑下してしまう。



「紗夜」



 名前を呼ばれた。


 あなたは立ち止まり、私を見ている。


 私の心の中まで見透かしてしまうあなたの目が、私をじっと見つめてる。


 あなたは弱音は受け止めてくれるのに、私が私を卑下するととても怒る。


 俺の大好きな人を馬鹿にするなって、凄い奴なんだぞって怒る。


 今もそうやって、静かに怒ってる。



「ごめんなさい」



 滅多なことでは怒らない。


 そんなあなたを怒らせてしまって、ごめんなさい。


 気付いたら、あなたの家の前だった。


 手を引かれて、あなたの部屋に連れて行かれる。


 座らされて、抱きしめられた。


 あなたの温もりが、私を包み込む。



「考えてしまうの」


「うん」


「私は重りになってないかって」


「怒るぞ?」


「あなたは社交的で、勉強ができて、かっこよくて、とても魅力的よ」


「お前は美人で頭が良くてスポーツ万能でとても魅力的だな」


「私は欠陥品よ」


「本当に怒るぞ」



 どこまでも私を優先してくれる。


 私を馬鹿にした人を決して許さないあなたは、私にすら私を馬鹿にすることを許さない。


 たまにこうして、どうしようもなくなってしまう。


 そんな時あなたは静かに私を抱きしめて、あなたの温もりで私が1人ではないと教えてくれる。



「新しい生活が始まって、いろいろ考えてしまうの」


「そうだな」


「そんなことないって心の中ではわかっているのよ」


「俺はお前が1番だからな」


「わかってはいても、怖くなるの」


「学校では随分不安そうな顔してたもんな」


「それがわかるのもあなただけよ」



 あなたの温もりとあなたの言葉で、少しずつ落ち着いていく。


 本当に、大好き。

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