第12話
「楽しそうだな」
「ええ、動物園は久しぶりだもの。また今度水族館も行きましょうね」
「そうだな。お前と行くならどこだって行くよ」
なんだか恥ずかしいことを言われた気がするけど、ご機嫌な私は細かいことは気にしない。
うきうきした気分で駅へ歩く。
空いている電車、隣同士で座って動物園に向かう。
一駅止まるごとにまだかなと反応する私に、少し落ち着けと嗜めてくる。
30分ほど電車に揺られ、やっと動物園のある駅に到着した。
あなたの手を引いて、急かす私。
何度も行ったことのある動物園。
久々だけど何も変わってない。
道なりに展示された動物を見ていく。
「みんな可愛いわね」
「そうだな、お前の好きな白熊ももうすぐだぞ」
「あなたの好きなハシビロコウはまだ先ね」
お互いに動物好きではあるがその中でも好みがある。
久しぶりの動物園、前回行ったのは去年の秋ごろ。
有名な動物園のようにパンダがいたりするわけでも、特別な展示スペースがあるわけでもないけれど、小さい頃から何度も来た、あなたとの思い出がたくさんある場所。
「もうすぐ白熊ね」
「そうだな。満足するまで付き合うから、好きなだけ見てて良いぞ」
「ありがとう。ハシビロコウの時はあなたに付き合うわ」
「俺はそこまで長く見たりしないぞ」
白熊が展示されている場所に着き、私はスマートフォンを取り出して何枚も撮影していく。
のんびりとごろごろしているところ、プールに飛び込むところ、泳いでいるところ、大きくて迫力満点で、かっこよくて可愛くて、いつまでも見ていられる。
気付けば1時間以上白熊を見ていた。
あなたはそんな私を幸せそうに、にこにことした顔で見ていた。
「満足したわ」
「それは良かったよ」
「退屈じゃなかった?」
あなたの顔を見ればそんなことはないとわかるけれど、つい確認してしまう。
「俺はお前が楽しそうならそれで幸せだからな、一緒にいて退屈に感じたことはないぞ」
私の不安を吹き飛ばすような、優しいあなたの言葉にどきどきする。
「少し行けばハシビロコウがいるわよ、早く行きましょう」
照れ隠しでそう言って手を引くと、あなたは優しく笑って着いてきてくれる。
「ほら、ハシビロコウよ。ふてぶてしい顔ね」
「まあ、そうだな。あの面構えがなんか良いんだよ」
動かないイメージだけれど、案外動くハシビロコウ。
餌を定期的に貰えることをわかっているからかしら。
動かないのも餌を取る為だから、その餌が貰えると理解すれば動きも変わるのだろう。
「ほら、こっち見てるわよ」
「こっち見てるな。写真撮っておこう」
カメラ目線のハシビロコウと一緒に、私たちも肩を寄せ合って自撮りする。
その後もじっくりと園内を回り、2人で楽しんだ。
お昼はお母さんに手伝ってもらいながら作ったお弁当を2人で食べた。
美味しいよって言って、たくさん食べてくれて嬉しかった。
「全部見たかしら?」
「そうだな、一周した感じかな」
「もう一回、白熊を見に行って良いかしら?」
「良いよ、行こうか」
「ありがとう」
なんとなく動物園デートが終わってしまうのが惜しくなって、白熊を見たいと言って終わりまでの時間を引き延ばす。
白熊を見たいのは確かなので、あなたの手を引いて白熊のところへ向かった。
「あら、ご飯を食べてるわ」
「むしゃむしゃ食べてるな」
餌を食べているところを動画で撮影する。
食べ終えると横たわり、まるで休日のお父さんみたいだと思った。
「満足したわ」
「それは良かった。楽しかったな」
「また、来ましょうね?」
「ああ、また来ような」
2人で動物園を後にする。
手を繋いで歩く帰り道。
幸せなあなたとの時間を噛み締める。
わたしとあなた ばつ @huannotane
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